漆黒の魔女 04 ルルーシュがチューペットを食べ終えるのを待っていたかのように、少年はルルーシュに話し掛けてきた。 「おまえ名前は? なんでここにいたんだ?」 「一度に聞くな。…それに名前を知りたいなら、自分から先に名乗ったらどうだ」 「いちいち細かいやつだな。俺は枢木スザクだ」 枢木、その言葉にルルーシュは思わず少年――スザクを凝視する。 (確か枢木ゲンブには息子が1人いたな…。そうか、こいつが…) 自分をじっと見つめたまま黙り込んでしまったルルーシュの様子にスザクはむっとした表情を浮かべた。 「何黙ってんだよ。おまえも早く名乗れよ」 「…すまない。私はルルーシュだ」 「ルルーシュ、か。なあ、なんでルルーシュはここに来たんだよ?」 ブリタニアと日本の関係は決して良くもなければ、悪くもない。そんな関係だった。日本にブリタニア人がまったくいないというわけではないが、東京などの都心部から離れたところでブリタニア人が足を運ぶことなどほぼ皆無である。 「それは…言えない」 「なんだよ、それ」 スザクは納得がいかないという目でルルーシュを見つめた。この森に茂る青葉に良く似た常盤色の瞳に見つめられるとなんとも居心地が悪く、困ったルルーシュは視線を彷徨わせる。 「…私の、大切な妹のためだ」 「え?」 「だから、ここに来た理由だ!」 自分でもどうしてこれから暗殺する人間の子供にこんなことを言っているのかルルーシュは分かりかねていた。シャルルと取引をしてからというもの弟のように可愛がっているロロにさえ、決してナナリーのことを口に出さなかったのに、どうして会ったばかりのスザクに話したのだろうか。 (きっと会ったばかりだったからだろう。そして、もう会わないとわかっているから…) 話をしてもそれがナナリーの危険に繋がらないとそう無意識のうちに思ったのだろうと、ルルーシュは思った。 「妹…俺にも妹みたいなやついるけど、あいつ生意気だしなー。妹ってそんなに可愛いか?」 「可愛いに決まってるだろう。私の妹は世界一可愛らしいんだ」 その愛らしい姿も、心優しい性格も、鈴を転がしたような声も、華のような笑顔も、全てが皆愛しい。ナナリーはルルーシュにとって唯一絶対の存在だ。 もう二度と会うことが許されなくても、それだけが絶対に変わらないルルーシュの真実。 「…何よりも、大切、で…」 気が付くと、はらはらと涙が零れ落ちていた。マリアンヌが死んだときも泣けなかったのに、今になって堪えていた涙が溢れて止まらない。 「え、おい、ルルーシュ泣くなって!」 スザクが慌てたようにルルーシュにそう言うが、止めようと思っても涙は止まることを忘れたかのように零れ続けていた。 「あー! もう、しょうがないやつだな!」 泣きやまないルルーシュに焦れたスザクは自分の胴着の袖でルルーシュの目元を拭ってやった。自分が手が早くうえに乱雑だと自覚しているため、スザクは出来る限り丁寧にルルーシュの涙を拭うように気を付けた。 「……ふ、変な顔」 あまりに気を付け過ぎてがちがちに緊張しているスザクの表情にルルーシュは思わず笑う。 「人がせっかく親切にしてやってんのに、笑ってんじゃねーよ!」 「すまないな。……ありがとう、スザク」 感謝の気持ちを込めてルルーシュがそう微笑むと、スザクは夕陽に負けないくらい真っ赤にさせて顔を背けた。 「べ、別に、礼を言われるほどのことじゃねぇ」 我が強く、乱暴なところがあるが、スザクの本質はとても温かで優しいのだろう。ルルーシュはそっと目を閉じてこれからのことを思う。 (これから私はスザクの父を殺すんだ) そしてブリタニアと日本の間で戦争が起こり、日本はなくなるのだろう。 (スザク、ごめん) 再び疼き出す胸の痛みにルルーシュは気が付かないように、掌をぎゅっと握り締めた。 next また短くてスイマセン…区切りがいいもんで; 2009/1/21 |