漆黒の魔女 03 日本はブリタニアとは違い、はっきりとした四季がある。今はちょうど夏の盛りらしく、焼き付くような日射しと煩いほど蝉の鳴声が印象的だった。 あまり暑さに強くないルルーシュだが、泣き言は言っていられない。ブリタニア人だとばれると面倒なのでメガネをかけ帽子を被り、目立たないよう人並みに紛れてルルーシュはゲンブの邸宅も兼ねている枢木神社を目指す。 日がゆっくりと傾き始めた頃、ルルーシュはようやく枢木神社に到着した。事前に手に入れておいた見取り図と屋敷全体を見合わせるため、ルルーシュは枢木神社が見渡せる場所へと移動する。枢木神社を囲む山の中腹にあたるその場所はひまわりが綺麗に咲き誇り、その先が小さな崖のようになっており、そこから枢木神社が見渡せた。 「きれいな場所だな…」 赤みを帯びた夕日に染め上げられたその風景はブリタニアとはまた違った、しかし劣らない美しさがあった。この美しい風景を、そしてこの中で生活するする人々をブリタニアがこれから蹂躙するのだと思うと、胸が痛んだ。 しかし、それの一役を担うことを選んだのは紛れもなくルルーシュ自身の意思である。だからそのことを悲しいと思う権利など自分にはないのだと、ルルーシュは痛みに耐えるようにぎゅっと瞼を閉じた。 「誰だお前!」 突然は以後からした声にルルーシュは驚き振り返る。そこにいたのはルルーシュと同じくらいの年齢の少年であった。子犬のような容姿に似合わず、意志の強そうな瞳がぎらぎらとルルーシュを睨み付けている。 「ここは俺の特等席なんだぞ! さっさと消えろ!」 横暴としか思えない少年の言葉にルルーシュは思わずむっとしてしまい、つい言い返してしまう。 「なんで君に指図されなくちゃいけないんだ。君の土地というわけではないだろうが」 「うるせー! 俺が見つけたんだから俺の場所だ!」 「そんな子供の屁理屈なんか聞けるか」 ルルーシュの言葉に耐え切れなくなったのか少年はルルーシュに向かって飛び掛ってきた。少年の動きが余りに素早く、ルルーシュは避け損ねて、頬を思い切り殴られる。ルルーシュは少女とはいえ訓練を受けた身、出来る限りダメージを受けないようにしたが、だからと言って殴られて面白い訳がない。ルルーシュは反射的に殴り返す。 「この…っ!」 思わぬ反撃を受けた少年が更に殴り返そうと拳をあげる。それを見たルルーシュはいつでも対応出来るようにすっと身構えるが、少年の拳は振り上げられたままルルーシュに向かうことはなかった。 「おまえ、ブリキ…てか、女…?」 「な…っ」 少年の言葉よってルルーシュは被っていた帽子がいつの間にか取れてしまっていたことに気が付いた。先程のやり取りの間に取れてしまったのだろう。 女だと知られる分には構わないが、ブリタニア人だと気が付かれてしまったのはまずかった。これからの任務に支障をきたすかもしれない。ルルーシュは体を強張らせ身構える。 「…あー、やめやめ!」 「え?」 「ブリキだとしても女に手を上げるのは俺の趣味じゃねぇ」 そう言って少年はルルーシュから少し離れたところに腰を下ろす。そして、手に持っていた棒のようなものをぽきんと2つにおって、片方を口に銜えた。 「ほまえも、はべる?」 割った片割れがルルーシュに差し出されるが、ルルーシュはどうしていいかわからず動けない。 「……チューペット、知らねぇの? こうやって食べんの。冷たくてうまいから食ってみろよ」 少年の言葉に促されてルルーシュはしぶしぶチューペットを受け取り、少年がやっているように銜えてみた。 「…甘い」 中にはシャーベットのようなものが入っていて、甘いそれを口に含めば夏の日に曝されていたルルーシュの体をスーッと冷やしてくれる。 「うまいだろ?」 得意そうに笑う少年の言葉にルルーシュは小さく頷いて答えた。 next 2008/11/12 2008/11/19(改訂) |