答えはおまえしか持っていない
君のいる明日 04



 ふわふわと漂うように意識は目覚め、また深い眠りにつく。それを何度も何度も繰り返している、それだけしかわからなかった。


「―――…、」
 ルルーシュがふと眠りから目覚めると、珍しいことに誰も周りにいなかった。スザクも、咲世子もジェレミアもいないことは心細くも感じるけれど、一人になって考える時間が欲しいと心のどこかで思っていたのだろうか、少しばかり安堵した。
 染みひとつない白い天井をぼんやりと見つめながら、ルルーシュは思考をめぐらせる。
 ――ゼロ・レクイエム
 悪逆皇帝として世界の憎悪を集め、正義の象徴であるゼロに誅殺されることによって世界に新たなる明日を歩ませる為のものだ。
 そして、かねてからの約束通りにスザクにユーフェミアの仇としてルルーシュを討たせるものだ。
(なのにスザクは…おかえり、そう、言った)
 不本意にもコードを継承してしまい生き返ってしまったルルーシュは、スザクにユーフェミアの仇を討たせてあげることが出来なかったことを真っ先に詫びた。けれどスザクはそんなルルーシュに声を荒げ怒り、そして微笑んだ。
(どうして、俺に笑いかける…?)
 憎しみはそう簡単に言えるものではないことを他の誰でもない、ルルーシュ自身が誰よりもよくわかっている。だからこそ、スザクの真意がわからなかった。
 いつもならば何通りもの可能性を弾き出すルルーシュの天才的な頭脳は、まるでオーバーロードでショートした機械のように固まってしまって動かない。
(どうして、俺に優しくするんだ…)
 あの日から何度も眠りと覚醒するルルーシュ。目を覚ませば必ず誰かがいた。優しく話し掛け、喉は渇かないかと、何か必要なものはないかと甲斐甲斐しくルルーシュに接する。
(どうしてなんだ、どうして…)
「ルルーシュ様?」
 どうして、と何度も繰り返す思考のループを断ち切ったのは咲世子の穏やかな声だった。
「咲世子、」
「お目覚めになられたのですね。申し訳ございません、すぐに駆けつけられず…」
「いい」
 その言葉に咲世子は柔らかく微笑み、そっと頭を下げた。


 蒸かしたタオルで体を拭き、衣類を取り替えると咲世子はルルーシュに冷えたレモネードを差し出した。喉が渇いていた自覚はなかったが体は飢えていたのだろう、一口飲み始めると気が付けばほとんど飲み干していた。
「ルルーシュ様、お食事はどうなされますか?」
「食事?」
「はい。しかし食事と言いましてもルルーシュ様はずっとお食事をされていませんでしたので、薄いスープなどから段々と胃を慣らしていく必要がございます。点滴だけでは体を維持するのは不可能です。ですから、出来るときに少しずつ食べ進めて行かれるのが良いかと」
 断食後の回復食のようなものかとルルーシュは咲世子の言葉に頷いた。それを了承と受け取った咲世子は手際よくスープを用意する。
 相変わらず美味しそうな咲世子の料理。しかし、ルルーシュは目の前に用意されたスープに手をつける気が起きなかった。
「ルルーシュ様」
「咲世子、俺は…」
 食べるという行為はそのまま生きるということに繋がる。未だ続いている自分の生に葛藤を覚えるルルーシュは食べるという行為がとても重いものに感じた。
「俺は…ゼロ・レクイエムで死ぬつもりだった…」
「はい。ルルーシュ様のその覚悟、咲世子はお側で拝見させて頂きました」
「けれど、俺は未だ生きている」
「はい。ルルーシュ様には申し訳ございませんが、咲世子はルルーシュ様が生きていらっしゃることをとても嬉しく思います」
「嬉しく…?」
「ええ、ルルーシュ様にまた仕えられることが、とても幸せです」
 咲世子の瞳はまっすぐにルルーシュを見つめている。その瞳には嘘偽りのない本当の気持ちなのだとそう浮かんでいた。
 己の生を喜んでくれる咲世子がいる。そのことは素直に嬉しいと思うけれど、それだけでは駄目だった。
「…俺はスザクに…償わないと、」
「ルルーシュ様」
 死して償う他にない、そう続けようとしたルルーシュの言葉を咲世子は静かに遮った。
「スザク様はルルーシュ様が生きていることがわかるとすぐに私を呼んでくださいました。そして、ルルーシュ様のお世話を頼まれました」
「スザクが…?」
「死んで欲しい者の世話を頼む人などいないと私は思います」
「そうかもしれない、しかし…!」
「ルルーシュ様は不安なのですね」
「…そう、なのかもしれない」
 ぐるぐるとめぐる思考。堂々巡りの答えを自分は持っていない。その答えを持っているのはきっと、スザクだけなのだ。
 罪を許して欲しいとは思わない。それだけの罪を犯したことはよくわかっているから。けれど、死以外の方法で罪を償うことを認めてもらわなくては、自分自身が生きていることを許せない。だから、言葉が欲しい。
(他の誰でもない、スザク、おまえの言葉が)
 俯いてしまったルルーシュは掌をぎゅっと握り締めた。その掌を咲世子はそっと覆う。
「スザク様がどうお考えなのか、私はスザク様ではございませんので、わかりません。ですからルルーシュ様、スザク様とお話下さいませ」
「話す…スザクと?」
「はい。これからどうするのか、どうしたいのか。お互いの気持ちを、考えを隠すことなくありのままお話下さい。そうすれば、きっとルルーシュ様の明日がやってきます」
 話すためにはまず体力をつけましょう、そう言って咲世子はルルーシュの手にスプーンを握らせた。目の前にはすっかり温くなってしまった咲世子のスープがあった。
「…――、」
 ゆっくりとスープを口に運ぶ。懐かしい、やさしい味がした。
「…ありがとう、咲世子。とても美味しいよ」
「ありがとうございます」
 咲世子に見守られながらルルーシュはゆっくりとスープを食べる。全て食べきることは出来なかったけれど、自ら食べようとしたことがルルーシュにとって大きな意味があった。


(スザクと、話をしよう)



そこから、始まる。そんな気がした。





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 久々の更新です…! 読みたいと言って下さったお嬢様方、ありがとうございます! 応援は何よりの活力です!
 しかし、ずっと03はきりのいいところかなーと思っていました。読み返したら全然きりよくなかったです。なんというかどうしてこれをきりがいい自分が思ったのか謎です。
 スザルルラブラブまであともう少し? 続きは早めにアップしたいと思います。頑張ります!




2009/02/23