それは、奇跡
君のいる明日 02



 ゼロレクイエムによってルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはその生涯を終える、はずだった。けれど、今、スザクの目の前でルルーシュは息をしている。生きているのだ。
 何故かはわからない。ゼロレクイエムを計画した彼らにとってもこれは想定外の出来事だった。
 死ななくていけないルルーシュを病院に運ぶことなどは許されない為、ゼロの為に用意された一室でルルーシュは運ばれた。彼は、あれからずっと眠っている。



「C.C. …わかるか?」
「これは…」
 ルルーシュに起きた現象の原因として考えられたのはギアスだった。スザクは咲世子に依頼し、すぐさまC.C.を呼んだ。
「ああ、間違えない。コード、だ」
「コードって君の…?」
「いや、私のコードは今もなお私が所有している。これは、おそらくV.V.が、そしてシャルルが持っていたコードだ」
「おそらく? 随分曖昧な言い方だね」
「そうだな…あまりに不完全な代物だからな」
 C.C.のはっきりとしない物言いにスザクは眉を寄せる。
「そう結果を急ぐな。…ルルーシュはコードをしっかり継承したわけではない。コードの残滓、欠片のようなものがある」
 アーカーシャの剣の前でシャルルと対峙した最後のその時にシャルルが一方的にコードを継承させようとしたのだろう、というのがC.C.の考えだった。けれど、コードの継承がなされる前にシャルルは消滅し、ルルーシュに残ったのはコードの欠片。
 完全にコードを継承していなかったからこそ、ルルーシュはその後もギアスを使うことが出来ていた。そして、一度死んだ。
「コードが完全ならばルルーシュは私と同じように不老不死となるだろう。けれど、ルルーシュのそれは不完全だ。ルルーシュはあのまま死ぬはずだった」
「でも、ルルーシュは実際…」
「息を吹き返した。これは、奇跡だ。そうとしか言いようがない」
「奇、跡」
「そう、この不完全なコードがたまたまルルーシュを生き返らせた。次もまた同じ奇跡が起こるとは限らない。今度こそルルーシュが本当に死ぬかもしれない」
 眠り続けるルルーシュの頬をC.C.は愛おしそうにそっと撫でる。あたたかな体温にC.C.は何かが込み上げそうになるのをぎゅっと瞼を閉じて耐えた。
「ルルーシュがいつ目覚めるのか、本当に目覚めるのか、それは私にもわからん。けれど、これだけは言える。死者が蘇るというのはありえないことだ。そのありえないことを無理にさせられたルルーシュの体は酷く脆いものになるだろう」
 いつ目覚めるのかもわからない。目覚めたとしても不老不死の体を持たぬまま、蘇生されたルルーシュは生前の頃のような健康状態を保つことが出来ない、とC.C.は告げる。
「僕が、守るよ」
 スザクはC.C.の目をまっすぐに見つめて、そう告げた。
「僕はルルーシュの騎士で…親友、だから、今度こそ僕が守るよ」
「それは…頼もしいな」
 C.C.はスザクの言葉にふっと笑みを浮かべる。そして、寝台に横たわるルルーシュの額に掛かる髪をそっとよけて、母が子にするような口付けをその額に落とす。
「枢木、ルルーシュが目を覚ましたら言っといてくれ。…“私との約束を反故にしようなんて、なんて男だ。ピザも持って私に詫びろ”とな」
 あまりにもらしいその台詞にスザクは苦笑する。
「伝えるのはいいけど、ルルーシュ怒るよ?」
「ふん、あんな童貞坊やが怒ったところで痛くも痒くもない」
 そう言って、C.C.はドアの方へと歩き出す。アドから出たそのとき、C.C.は振り返った。
「またな。次に会うのはそこの居眠り坊やが目覚めたときだ」
「ああ」
 C.C.がいなくなり、2人きりとなった部屋。スザクは先程までC.C.が腰掛けていたベッドの上に腰掛けた。
 穏やかに眠るルルーシュに目をやると、髪が少し乱れているのが目に入る。
(ああ、さっきC.C.が…)
 どろっとした感情が込み上げてきて、スザクはそんな自分の感情に苦笑するしかない。ルルーシュが死ぬまで、気が付こうとしなかったこの感情の答えを今のスザクはもう知っている。
(君が目を覚ましたら、伝えるよ)
 憎しみだけじゃない。本当は誰よりもルルーシュを想っていることを。


「待ってるよ、ルルーシュ…」



君が目覚めることを。そして、今度こそ…―――。





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2008/10/02
2008/11/19(改訂)