本当は嫌だと叫びたかった
君のいる明日 01



「ゼロ! ゼロ! ゼロ! ゼロ!」
 民衆のゼロを讃える声が辺りを埋め尽くす。最愛の兄を亡くしたナナリーの悲痛な声などまるで、聞こえないというように。
 嗚呼、なんて重いのだろうか。
(それでも、君のギアスは…願いは、必ず叶えるよ)



 世界に向けて発表をした後、ゼロは死んだルルーシュの遺体をその手に抱き、誰もいない廊下を歩いていた。葬儀をすることも許されない彼の遺体を、彼の忠実なる僕に預ける為だ。
 本当ならば、自分がしてあげたかった。けれど、ゼロにそれは許されない。
「…ルルーシュ」
 ルルーシュの死に顔はとても穏やかで美しかった。冷たくなければ、寝ているのだと言われても納得できるほどに。とても世界を恐怖に陥れた独裁者の死に顔になんて見えなかった。
「君は、ひどいよ…俺に、君を殺させるなんて…」
 何度も殺したいと思った。それほどまでに憎んだ。けれど、それは信じていた、大好きだったルルーシュが自分を裏切ったことが、許せなくて。彼の真実を聞き、彼とともに同じ目的の為過ごした日々が、少しずつ許せないという気持ちを変えていく。
 そう、確かに彼に恋していた少女が告げたように許したくないだけ、だったのだ。
 たくさんの罪を重ねた。お互いに取り返しのつかないほど、血に塗れて。でも、2人ならばその罪の贖いを出来ると思った。
 しかし、2人が手を取ったときから贖いの方法決めていた。ルルーシュはそれを違えようとはせず、彼は世界の汚名と罪を全て被り死に、自分は彼を殺し世界の救世主をして一生を生きることとなった。
「君がいない明日なんて…!」
 じわりと涙が浮かぶ。手にルルーシュの細い体を貫いた感触が蘇る。
 嗚呼、何度後悔しても、もう終わってしまったことだ。
「ルルーシュ様…!」
 そのとき、通路の奥からジェレミアが姿を現した。彼はルルーシュの前で一度膝を折り、頭を垂れてから、そっとルルーシュの額に掛かった髪を梳いた。
「よく成し遂げられました、ルルーシュ様。ルルーシュ様に最後まで付き従うことが出来たこと、このジェレミア、誠幸せにありました」
「…彼を、頼む」
「くる…いや、ゼロ。君も良くやり遂げた。ルルーシュ様のことは私に任せて…」
「待ってください…!」
 手に抱いていたルルーシュをジェレミアへ渡そうとしたそのとき後ろから声が掛かる。振り返らなくてもその声が誰の者なのかわかる。彼が最後まで愛し続けた妹、ナナリーだ。
「お兄様を連れて行かないで下さい…ッ」
 ナナリーと一緒にカレンや藤堂、コーネリア、星刻、扇などといったメンバーも駆けつけていた。ゼロはゆっくりと振り返る。
「ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアは世界を恐怖に陥れた悪しき存在だ。しかし、彼はもう死んだ。彼の遺体ぐらいは静かに眠らせてやるべきであろう」
「違うんです、そうゆうことを聞きたいんじゃありません! 貴方は、スザクさんなのでしょう? どうして…」
「枢木スザクは死んだ。私はゼロ。それだけだ」
「でも、見えたんです! お兄様がスザクさんにゼロの仮面を渡すところを!」
 その言葉にゼロは息を呑む。見えた、とはどうゆうことなのか。
「あんな振る舞いをしたのはお兄様たちの本意ではなかったのでしょう!? 教えてください!」
「知って、どうなる」
 感情を押し殺したようなゼロの平淡な問いにナナリーは体を小さく震わせた。たじろいたナナリーを庇うようにコーネリアが前に出る。
「我々は知りたいのだ…何が、真実なのか」
「だから、知ってどうなると言うんです。例えルルーシュが世界の為に死ぬことを選んだのだとして、貴方方の何になる?」
「それは…!」
「ただ、自分を楽にしたいだけなんでしょう。真実を知って、後悔すれば、自分が全てルルーシュに押し付けたということから逃げられるってだけでしょう」
「おい、ゼロ」
 ジェレミアがゼロの服の裾を引く。思わず感情に任せて、言い過ぎてしまった。
(ルルーシュとの、約束を守らなくちゃ)
 ルルーシュを抱き上げていた手にぎゅっと力を入れる。そのとき、手に伝わったのは微かな違和感。
「…え」
 周りの目など考えられなかった。ゼロは、スザクは仮面を外し、それを放り投げる。
「お、おい! 枢木!」
 ジェレミアの制止も聞かずにスザクはルルーシュの胸元に耳を寄せた。
 ――とくん… とくん…
 微かにだが、確かに聞こえる鼓動。先程まで冷たくなっていた体にはほんのりとしたぬくもり。
「嘘…」
「枢木?」


「ルルーシュが、生きてる…!」




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2008/10/01
2008/11/19(改訂)