Eternal trinity 04 スザクがあの白兜のパイロットだった。何度もルルーシュの行く手を阻んだあの機体にスザクが乗っていたのだ。 なんていう皮肉だろうか。抱き合ったその後に、その手で相手を殺そうとしていたのだから。ルルーシュは自嘲じみた笑みを浮かべた。 夜の闇に包まれた部屋、パソコンのディスプレイの青白い明かりが唯一の光源だ。パソコンからニュースの音が漏れて、静かな部屋に響く。 『枢木スザク 汝、ここに騎士の誓約をたて、ブリタニアの騎士として戦うことを願うか』 『イエス、ユア ハイネス』 聞こえてくるのはよく知った声だ。 『汝、我欲を捨て、大いなる正義のために剣となり、盾をなることを望むか』 『イエス、ユア ハイネス』 ルルーシュはこの言葉の深く、重い意味を、知っていた。それはきっとディスプレイの中で誓いをたてている2人よりも、ずっと。 『わたくし、ユーフェミア・リ・ブリタニアは汝、枢木スザクを騎士として認めます』 そうだ、スザクは騎士になったんだ。ユーフェミアの、ブリタニア皇族の、騎士に。 今日、いやもう0時を回っている、昨日、スザクと別れる際にした嫌な予感はこれだったのだ。だから、あんなに必死になって、ルルーシュは約束を取り付けた。 「…それも、無駄になってしまったな」 ルルーシュは下腹部に手を当て、ナナリーの髪を撫でるときのように、そっと優しく撫でた。 ごめん、ルルーシュは声に出さないまま、小さく謝った。 「堕ろすのか?」 「…C.C.」 いつの間にか部屋の中にC.C.はいた。ベッドに腰掛け、チーズ君を抱きしめている。ルルーシュはC.C.の方を見ずに、パソコンのディスプレイに映ったスザクにそっと手を伸ばした。 「スザクは敵だった」 「そうだな」 「スザクはユーフェミアの騎士になった」 「ああ」 「スザクは内部からの変革を望んでいた。となれば、これはあいつにとってこれは喜ぶべきことなんだろう」 ルルーシュはパソコンの電源をオフにして、そっと窓辺に立つ。 「私とあいつの道はもう交わらない」 マリアンヌは殺され、スザクはユーフェミアの騎士となり、ルルーシュの手に残されたものは少ない。今、残されているものだっていつどうなるかわからない。ルルーシュを取り巻く環境はいつだって薄氷の上に立っているようなものなのだ。 「C.C.…わがまま、を言ってもいいか」 ルルーシュの細い指先が窓枠にかかった。微かに震える指先が白くなるまで、窓枠を握っている姿は、痛々しく映る。 「この子、堕ろしたくないんだ! リスクは承知している、けど…私は……っ!」 「馬鹿だな、ルルーシュ」 C.C.はルルーシュをそっと抱き寄せ、安心させるようにその背を撫でる。 「私はおまえの傍にいるといっただろう? 忘れたのか」 ルルーシュはC.C.の肩に顔を埋め、小さくすまない、と呟いた。声も身体も震えていたが、それでもルルーシュは涙だけは零さなかった。 ディートハルトの言葉によりスザク暗殺を試みたカレンを止め、ルルーシュはスザクの方に顔を向けた。 「遅くなってすまない」 「いや、来てくれただけで嬉しいよ」 ルルーシュに向けられるスザクの笑みはいつもとなんら変わりはない。なのに、どうしてこんなにもスザクを遠く感じるのか、ルルーシュは小さな溜息を落とした。 「そうだ、ルルーシュ。話があるって言ってたけど…」 「……その話は…、もう、いいんだ」 「でも」 「気にするな、忘れてくれ」 「ルルーシュ!」 「そんなことより、ユーフェミア皇女殿下の騎士就任おめでとう、スザク」 ルルーシュが有無を言わさぬ笑みでスザクに微笑んだ。 パーティーもお開きになり、残っているのは後片付けに借り出されている生徒会メンバーと本日の主賓であるスザクだけだった。ほとんどの片付けを終え、テラスに出ていたルルーシュの元に歩み寄る気配、スザクだ。 「どうかしたか?」 「…いや、その、」 言いよどむスザクにルルーシュは苦笑する。そのままテラスの柵に背を預けるようにして座り込み、隣の床をとん、と叩く。スザクはルルーシュの隣に腰を下ろす。 「スザク、私はおまえと会ったことも、再会したことも、何一つ後悔してないよ」 「僕だってそうだよ」 ルルーシュは微笑んでスザクの頬に手を伸ばした。そして、甘い声で囁いた。 「スザク、愛してるよ」 「ルル…っ」 スザクの言葉を遮るようにルルーシュはスザクの唇にそっと口付けた。触れるだけの、キス。初めてのキス、だった。そして、最後の―――。 一瞬のキスを終え、ルルーシュは泣きそうな笑みを浮かべた。左目が紅く輝く。 「枢木スザクに命じる、―――生きろ」 ルルーシュのギアス――絶対遵守の力。相手の主義・理想さえも捻じ曲げる力。スザクだけには使いたくなかった。 「ごめん、スザク、私のエゴだ…」 「…ん、あれ? ルルーシュ?」 「スザク、そんなところで居眠りしていたら風邪ひくぞ」 「え、あ、うん」 スザクはどこか腑に落ちない表情を浮かべていたが、ルルーシュはそれに気が付かないフリをした。 「明日は朝一で軍務なんだってな。早く帰って休めよ」 「あ、そうだね。そうするよ。じゃあね、ルルーシュ」 こちらを振り返りながら手を振るスザクに、ルルーシュも手を振り返す。 「さよなら、スザク」 next 2007/10/11 2008/11/12(改訂) |