Eternal trinity 12 終戦時に取り付けたれた会談は、終戦から2日後に行われることになった。ブリタニア側からはシュナイゼル、コーネリア、ユーフェミアが、日本からはゼロと京都六家を代表して神楽耶が参加した。 「我々が求めるのは日本の独立だ」 「そうだろうね」 「しかし、それだけだったら、会談は必要ない。ブリタニアに出て行けといえばそれで終わる話だ」 ゼロが提示したのは現在の植民地エリアとブリタニアとの共栄だった。独立した国は共栄連盟に加盟する。それによって、資金・技術支援、また周辺諸国からの侵略行為があった際には軍の派遣を可能とする。また独立した国からはブリタニアとの特別貿易ラインを作り、物資の交流の活発化を図る。相互の国の住人は各国を自由に行き来することが認められ、学術・技術などの向上に目指し、その上で生まれた利益は両国に還元される、など多岐に亘った。 対等で平等な相互の関係、確かに素晴らしい案だ。しかし、現在の差別することに慣れた社会が簡単にそれを受け入れるとは思わなかった。 「そうだな、一般市民はともかく貴族や純血派はそう簡単に納得しないだろう。だからこそ必要なのが、これだ。」 ゼロが示した書面を見て、神楽耶は顔色を変えた。 「ゼロさま! わたくしはこんなこと聞いておりません!」 「そうだったかな」 そこに記されていたのは、ゼロの処刑だった。神楽耶は会談中なのも忘れ、縋るようにゼロの服の裾を握り締めた。 「わたくしたちを見捨てるのですか…っ」 「そのつもりはないよ、神楽耶。よく見てみろ、1年後と記載してあるだろう。このプランが流れに乗るまで、私には見届ける義務がある」 「それで、1年か」 「貴族どもには温情で1年の執行猶予を与えてやったとでも説明しておけばいい」 「しかし、ゼロ。ブリタニアの感情は君が死ぬことで収まりを見せるかもしれないが、日本を開放してくれた救世主を殺される日本人の感情はどうするつもりだい?」 「それに関しては私に任せてくれ」 ゼロはそう言って、今度は末席に座っていたユーフェミアに視線を向けた。 「ユーフェミア、君には連盟の主席の任について欲しい」 「わたくしが、ですか…?」 「ああ」 ユーフェミアは戸惑って視線を彷徨わせ、俯いてしまう。しかし、それでもゼロはユーフェミアの発言を待った。 「…わたくしは何も知りません。そんなわたくしに務まるでしょうか?」 「君がそうありたいと望むなら」 「望みます」 迷いを捨てた瞳で、ユーフェミアはゼロを見た。ゼロはそんなユーフェミアの様子に少し空気を和らげる。 「今日から私と君の間に専用のホットラインを引く。何かわからないことがあったら、いつでも私に聞くといい。ただし、まずは自分で考えてから、そして1人で決断しないことだ。おまえは1人ではない。それを忘れるな」 「はいっ」 こうして、日本の独立が決まり、新体制が次々と立てられていったのだった。 会談を終え、神楽耶とゼロは黒の騎士団の所有するベースと戻った。騎士団の面々に会談が上手くいったことを伝えながら、ゼロは自室へと向かい、神楽耶もその後を追った。 「まだ納得なんかしてないんですからね、ゼロさま…いえ、ルルーシュさま!」 カシュ、と音を立ててゼロの仮面は外され、現れたルルーシュは困ったように眉尻を下げている。神楽耶はつかつかとルルーシュに歩み寄る。 「ブリタニアの心境なんて知ったことじゃありません! 貴方が死ぬなんて嫌です!」 「すまない」 「謝らないで、お願いですから、考え直してください!」 「それは、出来ない」 「黒の騎士団の皆さんだって、知ったら怒りますよ」 何を言ってもルルーシュは苦笑を浮かべるだけで、意思を曲げようとしない。神楽耶はそれが悲しくて悔しくて、涙が零れた。 「本当にそれで、いい、って…いうんですか、ルルーシュさま…ッ」 「ああ。私の手はもう汚れすぎている。こんな幕引きが相応しい」 ルルーシュの瞳が自嘲の色を浮かべて、自分の掌を見つめて、そう呟いた。その言葉が神楽耶にはどうしても我慢出来なかった。 「ルルーシュさまは日本の為に戦ってくださいました! ルルーシュさまが汚れていると言うのならば、それは助けられた日本人すべてが負うべき汚れです!! ご自身のことをそんなふうに仰らないで…っ」 「ありがとう、神楽耶。君は優しいな」 優しいのは貴方だとそう神楽耶は言葉を返したかったけれど、嗚咽が止まらなくて、自分より背が高い少しだけ年上の彼女に縋りついて、声を上げ泣いた。ルルーシュの指が神楽耶の髪を慰めるように優しく梳くから、神楽耶は泣き止むことが出来そうになかった。 どうしてルルーシュはこんなに優しいんだろうか。どうして世界はルルーシュに優しくないんだろうか。神楽耶の頭の中をぐるぐると疑問ばかりが廻って、答えは出そうにない。 「神楽耶、頼みたいことがある」 「…っ何でも、おっしゃって下さい!」 せめてルルーシュが望むことだけでも叶えてあげたくて、神楽耶は泣きはらした顔を上げた。 「1年後の処刑のあと、誰も私の正体を知ることがないように処分して欲しい」 自分のことを処分と淡々と語るルルーシュが切なくて、神楽耶はまた泣きたくなる。貴方の処刑など嫌だと心が悲鳴を上げたけれど、神楽耶はその心の声を押し込めた。 「わ、かりました…ルルーシュさまの、髪の毛1本だって、あいつらには渡しません」 「あと、出来ればこの子を私の代わりに育ててくれないだろうか?」 はっと神楽耶はルルーシュを見れば、慈しむ想いが滲むような優しい顔でそっと腹部を撫でるルルーシュ。細身のルルーシュは妊娠してもそんなにお腹が大きくなっていないけれど、もう2、3ヶ月で子供が産まれるのだ。 こんなにも愛されているのにその子供は産まれて1年も経たないうちに母親を失うと決まっているなんて、なんて酷い話だろうか。 「わたくしで、いいんですか…? 貴方の大切な、子供を、わたくしが…!」 「ああ、神楽耶に頼みたい」 ルルーシュの戦う理由ともなった大切な存在を預けてもらえることが、身に余るほどの光栄だった。ルルーシュの子が健やかに育つような日本にする、それが神楽耶の戦う理由となる。ルルーシュは自らの死後も、神楽耶を導いてくれる。 また溢れそうに涙を瞼をぎゅっと閉じて堪えて、神楽耶は何度も頷いた。 「…ルルーシュさま、その子にルルーシュさまのこと話してもいいですか?」 「そうだな、この子が大きくなって、母親のことを知りたいと望むなら」 「父親の、ことは…?」 「それは…――伝えなくて、いいんだ」 next 2007/10/19 2008/11/14(改訂) |