傷付いても変わらないもの



Burn My World 09




 スザクは黒の騎士団の陣営のテントの陰に隠れるようにして座っていた。頭の中をぐるぐると先程の悲しみと困惑が回り続け、終わりの見えないそれにスザクは自分の二の腕をぎゅっと握る。
「スザク!」
 掛けられた声と同時に何かが飛んできた。スザクはそれを反射的に掴む。飛んできたのは飲料水入ったボトルだった。
「カレン…」
「落ち込んでるの?」
 そう問いながらカレンはスザクの隣に腰を下ろす。答えないスザクに構わず、小さな声で話しだした。
「昔ね、アンタと同じことをあの人に言われた人がいるわ」
「え…?」
「紅月ナオト、あたしの兄。黒の騎士団の前副指令」
 カレンは何処か遠く見たまま、独り言のように呟いた。
「お兄ちゃんはそう言われて納得出来なかったんだって、だからあの人にやっぱり俺は一人を見捨てることは出来ないって言ったそうよ。そしたら、1人を助けたいと望むなら、作戦に遅れることのないように助けろって、1人も100人も、自分も全て生かせって言われたんだって」
「それって…」
「あの人は優しい人よ。あたし達の為により危険の少ない作戦をいつも模索してくれてる。スザク、今回みたいに人助けしてもアンタが死んだら、あの人は悲しむわ。…お兄ちゃんは結局、あの人を悲しませてしまった。スザクはそうならないで」  修羅の道を歩くルルーシュは鬼になるには優しすぎて、一度身の内に入れたものを絶対に大切にする。その想いが時にルルーシュを傷つけるけれど、ルルーシュはそれでも優しいまま強くなろうとしている。兄・ナオトの遺志を継ぎルルーシュに仕えようと誓ったカレンはルルーシュのその優しさを愛しくも、悲しくとも思う。
 心の悲鳴すら飲み込むルルーシュはその痛みを他者にはわけてくれないから、カレンに出来るのはその痛みを出来うる限りなくすことだけだった。
「絶対に、死んじゃダメよ」
 カレンはそう言ってすっと立ち上がり、歩き出す。その背中に小さな声が掛けられた。
「……カレン、ありがとう」
 その言葉にカレンは口元に小さな笑みをそっと浮かべるのだった。
(なんで僕、気が付かなかったんだろう)
 ルルーシュは決して1人なら見殺しにしろ、と言いたかったのではない。彼は出来る限りの人を助けようと努力していた。どうしても助けられない者達の痛みも苦しみも怨嗟も全部引き受けて、それでも凛と立つ。
 ルルーシュを支えたいと強く思った。その為には彼の隣に居続けなければならないんだとスザクは自覚した。



 ルルーシュは前回の作戦時に逃亡したKMFの掃討作戦に自らもKMFに乗って作戦に参加すべく、ラクシャータの元へやって来ていた。
「整備は済んでいるか?」
「ああ、もちろん。出るのかい?」
「カレンの紅蓮一式が使えない。戦力的な面で私が出るのが望ましい」
「二式はまだ使えないしねぇ」
「いつ必要になるかわからん。早く完成させてくれ」
「はいよ。」
 ルルーシュは目の前に保管されていた漆黒のKMF――残夜を見上げる。ルルーシュ為に造られたルルーシュ専用の機体である残夜は小型のハドロン砲が装備されている。
「行くぞ“残夜”」



 テロリスト達に発見されないように沈黙させていた発信機を作動させ、潜伏先を割り出して無効化する。単純な作戦だったが順調に進んでいた。KMFの搭乗するのは久方ぶりだったルルーシュだが、残夜はブランクなど感じさせないようにルルーシュに答え、ルルーシュは鮮やかに戦線に参加していた。
 元は公共団地化何かだったのだろう、当たり一帯はマンションがいくつも連なっていた。ルルーシュは部下達からの報告を聞きながら残り3機となった敵機の検索をシミュレートしていると、エフェクトスフィアが人影を捕らえた。
「…避難勧告を聞いていないのか」
 苛立ちを隠せないままルルーシュは舌打った。戦闘が終了したら、ここに救護班を呼ばねばならないなと考えていると、エフェクトスフィアがその人影を更にズームで映し出す。
「……っ!」
 ルルーシュは愕然とした。そこに映っていたのは3人の子供――そのうち1人は足を怪我しているようで、動けないようだった。おそらく子供達は避難勧告を聞いていなかったのではなく、聞いていても身動きできなかったのだろう。
 ――ビーッ ビーッ
 激しいアラート音。敵機の接近を告げるそれにルルーシュは我に返った。敵機はこのチャンスを逃がすまいともう既に銃口を残夜に定めていた。しかし、敏捷性の高い残夜ならばまだ回避行動が可能だ。ルルーシュはレバーを引こうとする。
(――! 避ければ、後ろが…!)
 回避すれば間違えなく後ろのビルの中にいる子供たちは死ぬだろう。一瞬の躊躇の中でルルーシュは覚悟を決める。
 ルルーシュは残夜で後ろのビルを守るように立ち塞がり、敵機に向かってハドロン砲を放つ。それと同時に激しい衝撃がコックピットを襲った。咄嗟に緊急脱出をしようと試みるが、装置は作動しない。
 先程の攻撃によって内部メカが異常をきたしたようで、コックピット内でバチバチと青い火花を散らしている。その様子を霞む視界の中で捉えながら、ルルーシュはふと思った。
(……枢木に、合わす顔がないな)
 そうしてルルーシュの意識は途切れたのだった。




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 B.M.W.のルルはKMFの操縦は上手です。先生は藤堂さんという設定です。
 ルル専用機“残夜” 漆黒の準第7世代KMF。右手に小型ハドロン砲が装備。他のKMFより細いボディで、その分機動性には優れている。耐久性は一般KMFと同等程度。ラクシャータが造った。




2007/12/31
2008/11/16(改訂)