おまえが見ているのは、俺じゃない



Burn My World 10




 ベースに残って戦況把握とルルーシュへの報告をしていたディートハルトは、一機一機と減っていく敵の機体にこの作戦は問題なく完遂できるだろうと確信を抱いていた。敵の機体がルルーシュの向かっているポイントに近付いてきているのをモニターで確認したディートハルトはマイクに向かって呼びかける。
「殿下、そちらに一機向かっています…殿下?」
 いつもならばすぐに凛とした声が返ってくるはずなのに、返って来たのは沈黙でディートハルトは眉を寄せた。その次の瞬間、ルルーシュの機体“残夜”を示すコードが“LOST”と一瞬にして表示を変える。
「そんな、まさか…殿下!!」
 ルルーシュの実力に関して絶対の信頼を置くディートハルトは信じられない気持ちでいっぱいだ。思わず動揺を隠し切れずマイクに向かってそう叫べば、周りの部下達にもその動揺は伝わっていく。
「ルルーシュ殿下…」
 黒の騎士団はルルーシュという存在が居るから強いのだ。一本の柱がなければ脆くも崩れてしまう。ルルーシュと連絡がつかない間、情報部隊長である自分が取り乱してはいけないと、ディートは自らを戒める。
「作戦は続行する。実行部隊に確定ではない情報を伝える必要はない!」
 そう言いながらディートハルトはルルーシュがLOSTしたポイントに最も近い人間を探す。
「枢木准尉、聞こえますか」
『肯定です、部隊長』
「ポイント61-9にてルルーシュ殿下の機体がLOSTした至急現場に急行してください」
『殿下が…!?』
「救護班もすぐに送ります、早く現場に行きなさい!」
『…イエス・マイロード!』
 指示を出しながら、ディートハルトは部下達に気付かれないように小さく呟いた。
「貴方はこんなところで終わる方ではないでしょう、殿下…」



 ディートハルトとの通信を終了したスザクは指定されたポイント61-9に急行した。そこにいたのは二機の沈黙したKMF。一機は奪われた機体、もう一機はルルーシュの残夜だ。2機は向かい合うようにして沈黙していた。
 敵機は残夜のハドロン砲の直撃を食らったのだろう、機体の半分が溶解していた。しかし、残夜の機体特性なら一般KMFの砲撃など回避できそうなのだが、残夜は回避していないように見える。不自然に仰け反りながらも必死に後ろを庇っているようだった。
 コックピットが射出されてないのを確認したスザクはランスロットから降り、主導でコックピットを開こうとするが、砲撃により変形したコックピットは微動だにしなかった。スザクはランスロットに戻り、力ずくでコックピットを開けようとしたとき、エフェクトスフィアの端に何かを捕らえた。
「子供…?」
 モニターに映し出されたのは3人の子供だった。負傷でもしているのか、3人は固まったまま動かない。
「もしかして、この子達を庇うために…」
 避けられる砲撃を、避けなかった。後ろに居る子供達の命を守るために。
「貴方って人は…!」
 厳しい言葉を投げかけながら、スザク自身の、仲間の命を守れといいながら、ルルーシュは自分の命を簡単に人の為に捧げてしまう。
「僕は貴方を支えたいんだ! 貴方が死んでしまったらどうしようもないじゃないか…!」
 ミシミシと嫌な音を立てながらコックピットを抉じ開ける。そうしてスザクは再びランスロットから降り、残夜のコックピットに向かった。
「ルルーシュ殿下!!」
 中には血の臭いが充満していた。出血は主に2箇所。額からと、腕からだ。特に腕は破片が突き刺さっており、酷い状態だった。止血のため上腕部分をきつく縛る。
「殿下、しっかりしてください!」
 死なないで、置いていかないで。そんな想いがスザクを支配する。この思いをスザクは良く知っていた。これは夢で見る騎士の想いそのものだ。
「死なないで…!」
 スザクの声にルルーシュが薄っすらと瞳を開く。しかし、焦点は合っていなかった。酷い出血ため意識がはっきりしないのだろう。
「殿下!」
「…、……っ」
 ルルーシュは小さく何かを呟いた。けれどそれは聞き取ることは出来ずスザクはその口元に耳を寄せた。


「 おまえは、だれを みている…? 」



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2008/01/03
2008/11/16(改訂)