Burn My World 11 気が付いたのはいつの日だっただろうか。 するりと自分の生活の中に溶け込んだ枢木スザクという存在はルルーシュを慕っているようで、そうではなかった。気が付けばとても嬉しそうな表情でルルーシュを、いやルルーシュを通して誰かを見ている。 スザクにとって必要なのはルルーシュじゃない。そう知ったとき、ルルーシュはそれを悲しいと感じてしまった。理由はわからないが、悲しかったのだ。けれど、その感情は身勝手なものだとルルーシュは思った。スザクがルルーシュを通して誰かを思っていようともそれはスザクの自由なのだ。悲しいと感じ、それを相手に押し付けるのは自分勝手なエゴなのだと。 ―――おまえは、だれを みている…? 言うつもりなど、なかったのに。ずっと胸に秘めているつもりだったのに。 (すまない、枢木…) 意識を取り戻したルルーシュの目に飛び込んできたのはブルーの天井だった。正確には医療用のカプセル越しの天井だ。 (ここは…) 身体を動かそうと少し力を入れただけなのだが、ものすごい激痛がルルーシュを襲う。どうやら全身打ち身状態のようだった。視線を巡らせ、自分の状況を確認すれば、口元には酸素マスクが宛がわれ、左腕に包帯が巻かれており、右腕には点滴がうたれていた。 「気が付いたようだね」 声と同時に寝台を覆っていたケースが開き、よく知る顔がルルーシュを覗き込む。 「…ラ、………タ」 ラクシャータ、そう名を呼ぼうとしたが、声は掠れて出なかった。 「アンタは作戦中負傷、出血多量によるショック状態で重症。あの作戦より丸2日経ってるよ」 酸素マスクが外され、ルルーシュは身体を無理に起こす。ものすごい激痛に脂汗が滲むが、ルルーシュは起き上がろうとする。言っても聞かないルルーシュを止めようとせず、ラクシャータはそっとその背を支えた。 「…状況は…?」 「作戦は成功。今は扇と藤堂、ディートハルトが何とか繋いでるよ」 「そうか…」 彼らは信頼できる部下だ。ならば大丈夫だろうと考え、ルルーシュと身体の力を抜いた。 「殿下、枢木に感謝しときな。あの止血がなかったら、助かってなかったかもしれないよ」 ラクシャータの言葉にルルーシュは自分が不用意に発言してしまったことも確かに現実だったのだと確認させられた。謝らなくては、そうルルーシュは思った。 「ラクシャータ、枢木を…呼んでくれないか?」 ―――おまえは、だれを みている…? そう言われたときスザクは一瞬どうしていいかわからず固まってしまった。しかし、その直後にルルーシュが意識を失ってしまい、その言葉のことを考えないようにして、ルルーシュの救助に勤めた。 (僕は殿下を見てる) 本当に? そう心のどこかから声がする。スザクはその声を振り切るように頭を振った。 ルルーシュ以外にスザクが見るものなどない、何故ならルルーシュこそがスザクが待ち望んだ王なのだから。 (…あ) ルルーシュは王? 彼が王であることは間違えないはずだった。なのに拭えない違和感。 『君は面白いねぇ。ルルーシュ殿下を見ているようで、見ていない。力を欲しながら、争いを否定する。君のその矛盾は誰を傷つけることになるよ、きっとね』 ロイドに投げかけられた言葉が蘇る。そのときスザクは唐突に気が付く。 (僕は殿下を見てなんかいなかった) 同じ魂を有していようと、スザクがあの騎士ではないように、ルルーシュもまたあの王ではない。スザクはスザクという人間であり、ルルーシュはルルーシュという人間なのだ。それなのに、スザクは夢に囚われ王という存在に固執した。ルルーシュが王に似た一面を見せれば歓喜し、違う一面を見せれば落胆した。なんという身勝手さだろう。 ルルーシュはスザクがルルーシュと通して王を見ていることに気が付いていた。だから、あんな問いをしたのだ。 (ロイドさんの言うとおりだ…) スザクがそのことに気が付かないために、ルルーシュの心を傷つけただろう。 ずっと望んでいた王だった。だから傍にいたいと思った。けれど触れ合いを通じて王だからという理由ではなく、ルルーシュという人を支えたいと思い始めていた。そうして今気が付いた。 (謝らなくちゃ) そうして今度こそ枢木スザクとルルーシュ・ヴィ・ブリタニアとしての関係をちゃんと築きたい。そうスザクは思った。 そのとき通信を報せるアラームが鳴る。 「はい、枢木です」 『ちょっと医療ルームまで来てもらえない?』 「医療ルームですか…?」 『そう。殿下がお呼びよ』 「……了解しました」 スザクはルルーシュと向かい合う覚悟を胸に秘め、部屋を後にしたのだった。 next 2008/01/04 2008/11/16(改訂) |