Burn My World 07 スザクは実に数年ぶりに名を変えた故郷の地を再び踏むこととなった。トウキョウ租界と呼ばれるそこは、昔の日本の面影など何も残ってはいなかった。戦争時の傷跡を残すゲットーと、ブリタニア様式に塗り替えていく租界、それが今の日本――エリア11だった。 「そういや、ここってスザクの故郷なんだってな」 「あ、うん」 「やっぱ、自分の故郷がこうなるのって辛いよな?」 リヴァルの言葉にスザクは自分の心の中にある感情を振り返る。そこにあるのは、辛さでも、悲しみでもなく、ぽっかりと空く虚無。 「…わかんないんだ。心が麻痺でもしたみたいに」 「ごめん、変なこと聞いたな」 「ううん、大丈夫」 そう言ってスザクがにこりと笑うと、リヴァルは更に申し訳なさそうに顔を歪めた。そんなに気にすることないのにとスザクが思ったそのとき、突然パァン!と破裂音がした。 「おーめーでーとー! 君は僕の可愛いランスロットのデヴァイサーに見事選ばれましたぁ!」 「え、ええ?」 銀髪に白衣の男は手にクラッカーを掲げて近付いてくる。怪しいことこの上なく、スザクは反射的に一歩後ずさる。 「ロイド主任! 待ってください、こいつは黒の騎士団の団員ですよ!」 リヴァルはどうやら男のことを知っているようで、スザクを庇うようにして男に話しかける。 「勿論知ってるよ〜。ルルーシュ殿下から許可は頂いてるんだって。黒の騎士団から誰か1人借りてもイイ、ってさぁ」 「で、でも! 所属が!」 「ランスロットのデヴァイサーとなる人物の所属を優先するって取り決めてるから」 「ロイドさん! ちゃんと説明してください!」 咎める声と一緒に現れたのは藍色の髪の女性だ。彼女はロイドに近付くとぎゅっと耳を摘み上げて、スザク達に申し訳なさそうに頭を下げた。 「セ、セシル君…! いた、いたたた!」 「ごめんなさいね。私達は特別派遣嚮導技術部――通称、特派の者です。私達はシュナイゼル殿下の所属ですが、よりよい次世代型KMFの開発の為、このエリア11にいます。現在試作機が完成したのですが、デヴァイサー…つまりパイロットに条件があることが判明したんです。今回こちらに総督としてルルーシュ殿下が就任され、殿下に指示系統はそのままということで条件に合う人物を借りる約束をしたんです」 ここまではわかる?とセシルに聞かれてスザクは頷き返す。 「そして、条件に合うのが枢木スザク君、貴方なの。協力してもらえないかしら?」 「ルルーシュ殿下が承認なさっているんだったら自分は構いませんが…」 というか、この場合自分に拒否権はないんじゃないだろうかとスザクは思いながらそう言うと、今まで耳を抓られ大人しくしてロイドが瞳を輝かせて騒ぎ出した。 「良いパーツが手に入って、すぐ実戦データも取れちゃうし、最高だねぇ!」 「実戦データ…?」 きょとんとするスザクとリヴァルにロイドは驚いたように瞳を見開いた後、にや〜っと笑う。 「殿下ったらここを3ヶ月で平定する宣言しちゃったんだよ〜」 「え!? 本当ですか!」 「ほんと、ほんとー」 余力を残して降伏した為、このエリア11のテロはもっとも激しいことで有名だ。それを平定させるのにいくらルルーシュといえど3ヶ月は無謀な数字ではないのだろうか。宣言してしまった以上、これを成し遂げられなければルルーシュの評価に傷がつくのは目に見えている。 「君の仕える殿下の為に、確かな力が欲しくない?」 その言葉に思わずスザクは頷いてしまうのだった。 スザクが特派の開発した第7世代KMFランスロットのデヴァイサーになって1週間ほどが過ぎようとしていた。スザクが様々なシミュレーターでの実験に引っ張り回されていたその間、ルルーシュは引き継ぎやテロに関するデータ収集など忙しく過ごしていた。黒の皇子と謳われるルルーシュの出方を窺っているのか、ルルーシュ就任後のテロ活動は今現在、ない。 このまま争うことなくこの地が安定すれば良い、スザクはそう思いながら、今日もまたシミュレーターでの実験に借り出されていた。 「スザク君、お疲れ様。少し休憩にしましょう」 「あ、はい」 差し出されたコーヒーカップを受け取り、スザクは近くにあった簡易椅子に腰掛ける。そこへロイドがスキップするような勢いでやってきた。 「いっやぁ、いいねー! ランスロットが生き生きしてるよ!」 どう考えても生き生きしているのはランスロットというよりはロイド本人なのだが、ここにそれに言おうという人物はいなかった。スザクはその勢いに圧倒され、ふぅと小さな溜息を落とした。 「あれれー、溜息なんてついてどうしたんだい?」 「いや、その…」 「ランスロットの初陣も近いんだから、しゃきっとしてよね!」 「初陣ですか!?」 「うん。そりゃ、ルルーシュ殿下だもん。そろそろ仕掛けるでしょ」 「殿下はそんな方じゃありません!」 スザクの脳裏を夢の王の姿が過ぎる。王は弱き者を一方的に力で抑えるなど、決してしない人だった。強く、優しい王だった。その王であるルルーシュがそんなことするわけがないとスザクは信じていた。 「力ですべてを抑えるなんて、意味がない!」 「君はルルーシュ殿下に何を見てるのかな。力を無意味とするなら今ルルーシュ殿下が皇位継承権を上げこうしてここに来ることになったことを否定しているよ。彼は頭脳という力でエリアの人間の死体を踏み台にしてのし上がっている」 「ち、違う…!」 「何が違うの? それに君だって力が欲しいと言ったでしょーが」 確かに力が欲しかった。困難な道を行くルルーシュの力となるために、彼を守るために、だけどそれは戦いを望んでいるということではないのだとスザクはそう叫びたかったが、それは声にはならなかった。 「君は面白いねぇ。ルルーシュ殿下を見ているようで、見ていない。力を欲しながら、争いを否定する。君のその矛盾は誰を傷つけることになるよ、きっとね」 スザクはルルーシュを見ていないなんてことはないと反論したが、ロイドは取り合いもしなかった。そんなことはないはずなのに、ロイドの言葉が耳に焼きつき、何度も木霊していた。 (殿下を今度こそ守りたいと思っただけなのに…どうして見ていないことになるんだろう) next 2007/12/24 2008/11/16(改訂) |