Burn My World 05 夢を見る。 それは幼い頃から繰り返されていた。夢、と便宜上呼んでいるがそれに映像はない。真っ白な光の渦の中、ずっと誰かが囁きかけている。 ――大丈夫。ずっと傍におります 寂しいとき、心細いとき、声は必ずそう囁いた。 ――貴方の選択がどんなものであっても私は信じましょう 迷ったとき、声はそう囁いた。母であるマリアンヌを病気により亡くして、病弱なナナリーのために幼いながらも力を手に入れようと足掻く日々、辛くないわけがなかった。けれど、弱みを見せるわけにはいかなかったから、必死だった。 他者が聞いたら、所詮夢だと言うのだろう。けれど、辛いときに優しく背中を押してくれるその声は確かにルルーシュの支えだった。 ――どれだけの月日が流れようと、私は必ず貴方の元に辿り着く ルルーシュはふと目を覚ました。カーテンの隙間から差し込む朝日に目を細めながら、上体をゆっくりと起こす。昨日体調を崩して倒れてしまったわりには、身体は軽かった。 (夢で、あんなことを言われたのは初めてだ) いつも繰り返される夢はルルーシュを優しく支えてくれる声だった。しかし今日の声は辿り着くと言ったのだ。自分の元に、来る。その思ったとき何故だかスザクが脳裏を過ぎった。 「なんで枢木が…」 どうしてスザクが脳裏を過ぎるのか、そう思い呟いたそのとき、ルルーシュはあることに気が付いた。夢の中の声が、何故かスザクの声に重なって聞こえるということに。スザクと出会うまではそんなことなかったのにどうして突然そうなったのか、理由はわからなかった。 このままでは思考の坩堝に陥ってしまいそうで、ルルーシュは考えるのを止め、ベッドから身体を起こす。そうして慣れた手つきで紅茶を入れ始めた。人を自分のテリトリーに必要以上に入られるのを嫌うルルーシュは、大概のことは自ら行う。 (そういえば、何であの時、枢木をここに入れたんだろう) いくらナナリーに上着を貸した礼だといってもこのアリエス宮にはちゃんとした客間があり、自室に招く必要などなかったのだ。何も考えていなかったわけではない。ただあの時、枢木スザクという人間を知ったときに、まるでこうすることが当たり前のようにルルーシュはスザクを招いたのだ。 何故、どうして、疑問ばかりが増えていく。ルルーシュは苛々と沸き起こる気持ちを静めるように深い溜息を落としたのだった。 執務に集中して忘れてしまおうとそうルルーシュが意気込んで結構な量の書類を抱え歩いていると、ばったりとスザクと鉢合わせてしまった。 考えないようにしたいと思っているときに限って、どうしてその疑問の原因と遭遇してしまうのだろう。そんなルルーシュの憂鬱な思いをスザクは知るはずもなく、にっこりと笑みを浮かべルルーシュに話しかける。 「ルルーシュ殿下、おはようございます。お加減はいかがですか?」 「…どうしてここにいる」 問いに対してまったく答えてないのだが、話すルルーシュの様子方体調が回復していることを察したのだろうスザクは気にすることなくルルーシュの言葉に答える。 「どうしてって言われても、今日も僕フリーですし?」 「疑問形で返すな」 「それにしても結構な量の書類ですねぇ。僕持ちますよ」 ルルーシュの返事も待たずスザクはひょいっと書類の半分以上を取る。それなりの重さがあるはずなのにそれを感じさせない様子は筋肉がつかないルルーシュの密やかなコンプレックスを擽るが、それを言うのは嫌だし、書類を返せといったところで先程のように流されてしまうのだろう。 「勝手にしろ」 「はい、勝手にします」 くるりと踵を返して歩き始めれば、スザクがその後に続く。まるでそうすることが当然のように。ルルーシュはそんなスザクの様子を横目で見ながら、ふと思う。 (こいつ、犬みたいだ) ルルーシュに心の中で犬認定されたとは夢にも思っていないスザクはそのままルルーシュの執務室にて仕事を手伝うことになった。手伝う、と言っても、執務は全てルルーシュが行う。スザクに出来たのは書類の分別と整理ぐらいなものだ。それでも懸命に仕事をするスザクを視界の端に留めながら、また増えた疑問に小さな溜息を吐いた。 気が付いたら、するりと自分の中に入ってくる。ルルーシュに嫌悪感を覚えさせることもなく境界線を越える、それはまるで欠けていたピースがはまるようにしっくりと。 何故こうなるのか答えが欲しくて、答えを探すようにスザクの姿を追っていた。ルルーシュの視線に気が付いたスザクがにこ、と笑みを浮かべるが、ルルーシュはそれに気が付いてないように装って、書類に目を落とす。 (笑っているはずなのに、どうしてその笑みが遠く感じるんだろう) スザクという人間はルルーシュに疑問ばかりを投げかける。答えはまだ、みつからない。 next 2007/12/18 2008/11/16(改訂) |