Burn My World 04 黒の騎士団。第十一皇子ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの親衛隊。黒の皇子と名高いルルーシュ本人により認められたものしか所属することを許されない騎士団は、ブリタニア人・ナンバーズの区別がない。差別が国是として蔓延るブリタニアではその存在に反感を覚える者も多く、機会があれば潰してしまいたいと思う者も少なくない。 しかし、それでも黒の騎士団は未だ存在しているのは、与えられた任務に対し絶対的な戦果を上げ続ける、その功績ゆえである。どんな任務をも成功させる黒の皇子の忠実なる臣下達――それが黒の騎士団なのである。 そう実しやかに噂されていた黒の騎士団の実態は不思議なものだった。主であるルルーシュは場所を弁えているのなら、部下に対し敬語を強要しないし、絶対服従を押し付けない。彼ら自身に考えさせ、行動させる、その責任はルルーシュがとる。その部下を信頼しているということなのだろう。 黒の騎士団はブリタニア人もナンバーズも混合する珍しい部隊であるが、団員同士の中は非常に良い。スザクはスザク本人が驚くほどあっさりと黒の騎士団に迎えられたのだった。 「え、ルルーシュ殿下が爆笑した? そりゃないっしょ」 入団する際の話を同僚であるリヴァル・カルデモンドにすると、リヴァルに笑って否定された。 「そりゃあの人はいろいろやらせてくれるけど、部下との距離はしっかり保つ人だぜ? ちょっと笑うならまだわかるけど、爆笑は考えられないって」 「そうなの?」 「外面用のロイヤル・スマイルとナナリー殿下への笑みを除けば、ルルーシュ殿下が笑ってるなんてほとんどないぜ?」 黒の騎士団でも諜報部に所属しているリヴァルの情報は確かなものらしい。ならばスザクが見たルルーシュは一体なんなのだろう。ちょっとした手違い、なのだろうか。 「あ、噂をすれば殿下。おはようございまーす!」 「え! おはようございますっ」 「ああ、おはよう」 ちらりと視線を向けルルーシュは忙しいのかそのまま行ってしまった。 「ほらな、いつもあんなカンジだぜ。俺達は知ってるからいいけど、知らないやつから見たら冷たい人に思われるんだろうな…」 ルルーシュが黒の皇子たる所以、冷静にして冷徹、まるでチェスをするように戦果を上げる彼に対し皮肉と畏怖が込められた呼び名だ。スザクはそのことが悲しいと、優しい彼が他者に理解されていないことが悲しいと思った。 じっとルルーシュが行ってしまったほうを見ていると、端末の通信を知らせるアラームが響いた。条件反射で端末に手をやるが、スザクの端末に通信は入っていない。通信が来たのはリヴァルの方だった。 「あ! ごめんな、スザク! 俺、集合かかったから!」 「うん、またね」 「おう!」 リヴァルと別れたスザクだが特に向かうべき場所もなく、やることもない。これからどうするか頭を悩ませる。 常に忙しい諜報部と違って実戦部隊は日常これといって任務がない。作戦や全体訓練がない日は護衛などの任務を言い渡されない限り、時間の使い道は本人に任されている。1日を無為に過ごすのもなんなので、スザクは訓練場に向かうことにした。 訓練場ではスザク以外にも数人の団員がいた。スザクは運が良いことに滅多にはいないという実戦部隊の部隊長である藤堂に指導して貰い、充実した時間を過ごしたのだった。 今晩はアリエス宮の夜警勤務ではないスザクはそろそろこの近くに建てられている黒の騎士団専用の宿舎にそろそろ帰るべきなのかをぼんやりと考えていた。 (あんまり自由すぎるって言うのも困るもんなんだなぁ…) 今までの部署と違いすぎてどうするべきか迷ってしまう、そう思いながらなんとなく巡らせた視線の先にルルーシュの姿があった。書類を抱え歩いているだけなのに、思わず引き込まれてしまう。そんな不思議な力がルルーシュにはあった。 スザクがルルーシュから目を離せずにいたそのとき、ルルーシュがふらりとバランスを崩した。2、3歩たたらを踏むようによろめいて、そのまま倒れそうになる。スザクはあわてて駆け寄り、倒れようとするその身体を受け止める。 「ルルーシュ殿下?!」 抱きとめた身体は信じられないほど細かった。そしてその細い身体は妙に熱かった。 「…くそっ 誰にも、言う、な…」 自分を受け止めたのが誰だか焦点の合わないルルーシュはわからないのだろう。それだけを呟いてルルーシュは意識を手放した。 「ど、どうしよう…」 意識を失ってしまったルルーシュを抱えたままスザクは焦る。ルルーシュのこの状態はちゃんと医師に見せるべきなのだろうが、ルルーシュに誰にも言うなと言われてしまった。しかし、このままでずっといるわけにはいかない。 「仕方ない、よね?」 誰に言うわけでもなくスザクはそう呟き、ルルーシュを抱き上げる。その細い身体から半ば予想がついてはいたが、その身体のあまりの軽さに驚きを隠せない。力を込めたら壊れてしまいそうで、スザクは振動を起こさないように慎重に、前に案内されたルルーシュの部屋へと向かったのだった。 ルルーシュの部屋に備え付けられているベッドにルルーシュを寝かせたスザクは苦しそうなその呼吸を見て、首元のタイをそっと緩める。 (なんかイケナイことしてる気分になる…って、何考えてるんだ僕は!) 平常心平常心と心の中で呟きながら、スザクはルルーシュの額に浮いた汗をそっと拭う。先程よりも幾分か具合のよさそうな表情になっていって、スザクはほっと安堵の溜息をついた。 「…変わらないんだなぁ」 スザクはポツリと呟いた。 「あの人もこうして無茶ばっかしてた」 夢の中の王も無理を重ねて倒れて、よく騎士がその無理を窘めていた。こうして寝台の横で目を覚ますのを祈るような気持ちで待っていた。 それを懐かしく思いながら、もう一度額に汗を拭おうとしたとき、ルルーシュの長い睫毛がふるりと揺れた。 「…ん、」 「殿下?」 「くるるぎ…?」 目を覚ましたばかりのぼんやりと瞳が向けられる。どうやらまだ状況を把握できていないようだ。 「倒れられたんですよ、殿下は」 「…! ナナリーには伝わってないだろうな!?」 「殿下が誰にも言うなと仰ったので、僕以外知りません」 「そうか…」 そのことにほっとしたルルーシュは身体に込めていた力をふっと抜いた。 「体調悪かったのはいつからですか?」 「………。」 「執務も大事ですが、殿下が身体を壊したら何もなりませんよ。ナナリー殿下にご心配をかけなくないのでしたら、体調管理はしっかりなさらないと」 「……努力する」 視線を合わせないまま、憮然とした口調でそう返すルルーシュに普段は見せない子供の部分を見付けて、スザクは小さく笑みを零した。 「はい、そうしてください。殿下がお元気なら自分も嬉しいですから」 「…やはり、おまえは変わったやつだな」 「そうですか?」 「ああ、変なやつだ」 next 2007/12/16 2008/11/16(改訂) |