Burn My World 03 ルルーシュの後についてスザクは再びアリエスの離宮に足を踏み入れた。先程通された書斎よりも更に奥へと進んでいく。酷く場違いな気がして肩身が狭かった。 (もしかしなくても、僕、皇族侮辱罪とか何とかで処分されるんじゃ…) スザクは自分で想像してしまったその末路に思わず背中に冷たい汗が伝う。どんどんと顔を青ざめさせていくスザクに前を歩くルルーシュが気付くことはない。ルルーシュは通りかかったメイドに声を掛ける。 「咲世子にナナリーがみつかったと伝えてくれ。あと、ナナリーに温かい飲み物を」 「はい、ルルーシュ様」 ずっと歩き続けていたルルーシュがその歩みを止めた。その視線の先にはドア。ナナリーを抱えているから開けられないのだろうと思ったスザクはすっと前に出て扉を開ける。そのスザクの行動にルルーシュは瞳を丸くする。 「え、違いました?」 「いや、助かった」 ルルーシュはそう言って部屋の中に入っていく。スザクは後を追っていいものか迷って、そのまま待つことにする。 「お兄様、心配かけてごめんなさい」 「まったく、ナナリーは仕方ないな。今日は温かい物を飲んでゆっくり休むんだよ? 今度暖かい日に一緒に出掛けよう」 「本当ですか!」 「ああ。嘘をついたことなんかあったかな?」 「ふふ、そうですね」 そう言って微笑むナナリーの額にルルーシュが口付けを落とす。スザクはその様子を見ながら妙なデジャヴに襲われる。 (やさしくてあたたかい、大切なもの。僕はこの光景を知っている) でも、どこでなのかわからない。ナンバーズであるスザクがこうして近くで皇族という存在を見たのは初めてのことだ。自分の記憶を探るようにスザクは2人の様子をじっと見つめる。スザクの視線に気が付いたナナリーが小さく手を振る。 「スザクさん、またお会いしましょう」 「え、あ、こ、光栄であります!」 動揺を隠せないスザクの様子にナナリーがくすくすとかわいらしい笑みを漏らす。そうしていると温かい飲み物を持ったメイドがその部屋に入っていく。ルルーシュはそのメイドに2、3申し付けて部屋を出てきた。 感情を映さない紫電の瞳がスザクを捉える。 「も、も、も、申し訳ありません! まさか皇女殿下とは申し上げず、話し掛けられたからといって近付いたり、くしゃみしたからって上着かけたり、失礼な、いや無礼な真似を…!」 居た堪れなくなったスザクは自分でも何を言っているのかわからなくなりながら、がむしゃらに謝罪した。礼はきっかり90度。本当は土下座でもしたい勢いだった。 「……ぷっ」 聞こえてきたのは怒鳴り声でもなんでもなく、笑い声だった。思わずスザクが顔を上げると、あのルルーシュが口元と腹に手を当てて必死で笑いを堪えていた。 「おまっ…、変なやつだな」 一頻り笑ったルルーシュは目元に薄っすら浮かんだ涙を拭いながらそう言った。スザクは思わぬ展開に呆然としていると、その顔がよほど間抜けだったのかルルーシュはまた吹き出す。そして、手に持っていたスザクの軍服をスザクの頭にばさりと掛けた。 「妹に上着を貸してくれた礼だ。茶ぐらい淹れてやる」 ついてこいと言わん態度でルルーシュはまた先に進んでいく。ルルーシュの行動に翻弄されながら、それでもスザクはその後を追うのを止めたいとは思わなかった。 辿り着いた部屋は落ち着いた部屋だった。家具は最低限の物しかなく装飾品はほぼない。皇族の私室というには慎ましやかな、けれど居心地のいい部屋だ。 ルルーシュは自ら紅茶を淹れていた。その慣れた手つきは彼がいつもこうして自ら入れていることを示していた。 「まあ、座れ」 「え、いや、でも、その…」 「座れ」 「…はい」 スザクの前に差し出されたのは透き通るような赤い色が綺麗な紅茶だった。ふわりと香るかおりが緊張した心を少しだけ宥めてくれる。 そうして出来た心の隙間で、ふとスザクは思う。面接のときも思ったが、このルルーシュは無防備過ぎないだろうか。自分は害を加える気なんてまったくないが、これが本当に暗殺や誘拐を企てている人物だったらどうするつもりなのだろう。そう考えたら、スザクはなんだか胃の奥から冷えていくような感覚に襲われる。 「…差し出がましいと思うんですが、こんなに簡単に殿下のお傍に人をお寄せにならないほうがいいのでは」 「ほう、どうしてだ」 「いや、常識ですよ、殿下。せめて護衛ぐらい残しておかないと、何かあってからじゃ遅いんですよ?」 「随分な口を利くな」 「…あ」 慌てて両手を押さえるスザクだったが時すでに遅し、だった。 「冗談だよ。俺は傍に寄せる人間は見極めているぞ。枢木、おまえはナナリーがまた、と言った。あの子は人の感情に聡い。俺に害がある者に対しまた、とは絶対に言わない」 だからおまえは大丈夫、そうだろう、そうルルーシュに返されてスザクはそうですけど、と返すしか出来なかった。 「枢木、おまえは面白いやつだな」 「そ、そうでしょうか…?」 「ああ。面接のときは機械のようだった。問いに対して模範的に返して枢木スザクと言う人間が見えてこなかった。でも今のおまえは違う。ちゃんと枢木スザクだ。」 そうしてルルーシュは先程ナナリーに見せた微笑に似た笑みをふっと浮かべた。至近距離・正面から見るその笑みにスザクは思わず見入ってしまう。 「気に入ったよ、枢木スザク。黒の騎士団への入隊を許可しよう」 next 2007/12/14 2008/11/15(改訂) |