守れなかったもの



Burn My World 20




「次は絶対紅蓮二式が勝つんだから!」
 カレンの言葉にスザクは苦笑した。今日2人は、ランスロットと調整の済んだ紅蓮二式で模擬戦を行ったのだが、勝敗は言わずもがなである。
「絶対勝って、次の作戦の殿下付きは私がやるんだから!」
 殿下付き、スザクはその言葉にぴくりと反応した。殿下付きと言うのは作戦時にルルーシュに随伴することを許される立場のことであり、スザクも1度その役目を拝命している。スザクが選ばれたのはルルーシュの愛機である残夜に相当する機体ポテンシャルを持つランスロットのパイロットであるからして、カレンの言う通り紅蓮二式のほうが高い機体ポテンシャルを有するとなれば殿下付きはカレンの任務になるだろう。
 ルルーシュへの恋心を最近自覚し、そして妹君であるナナリーに騎士へと奨励されたスザクとしては、疑似騎士ともいえる殿下付きは譲りたくないものだった。
「ぼ、僕だって負けないから!」
「言ったわね! …って、え?」
 言い合いながらアリエスの離宮へと向かったスザクとカレンの目に最初に飛び込んでいるのは倒れている黒の騎士団の団員だった。慌てて駆け寄り状態を確認するが、どうやら外傷はない。
「しっかりしないさい! 何があったの!?」
「ダメだ…意識がない」
 団員の意識はなく、目覚める気配はなかった。どうにも嫌な予感がして、スザクとカレンは顔を見合わせ、頷き合うと、アリエスの離宮へと向かって走り出した。アリエスの離宮へと向かう途中にある庭園内でも警護の団員達が皆同じように意識を失っている。
「どうなってんのよ…!」
 アリエスの離宮が見えた、そう2人が認識したとき、アリエスの離宮には似つかぬ銃声と悲鳴が耳に届く。スザクとカレンは互いに銃を構え、開け放たれていたドアから離宮へ飛び込んだ。
「……ッ!!」
 そこでスザクが見た光景は信じられないものだった。
 血塗れで倒れ伏すナナリー、武装した複数の侵入者達、その侵入者達に対峙するように立つ血塗れのルルーシュ。侵入者の銃はルルーシュに向かっている。
 信じられない光景に動けずにいた一瞬にルルーシュは崩れ落ち、自らの血で出来たのだろう血だまりに倒れこんだ。
「ルルーシュ殿下…っ!!」
 スザクの叫びにルルーシュが反応を返すことはない。死んでしまったのだろうか、殺されてしまったのだろうか、スザクの心に怒りとも悲しみとも恐れとも似た激情が走る。その激情のまま引き金を引こうとした時、何故か侵入者達がいっせいに苦しみ始めた。彼らは自分の喉を掻き毟るようにのた打ち回り、そして息絶える。
「な、なんなの…」
「殿下っ!」
 カレンの困惑も最もだが、それよりも今はルルーシュのそしてナナリーの安否が気掛かりだった。スザクは駆け寄り、ルルーシュを抱き起こす。その細い身体が微かに呼吸を繰り返していることを確認したスザクはカレンを振り返る。 「殿下はまだ呼吸がある! 早く!!」
「ええ!」
 手配をカレンに任せたスザクは素早く傷口の止血を行い、ルルーシュの身体をそっと床に預けて、ナナリーの元に向かう。だが、その足は途中で止まった。
「ナ、ナリー…ッ」
 倒れ伏したナナリーの瞳は薄く開かれていた。その瞳にいつもの優しい輝きはなく、ナナリーが既に息絶えていることを雄弁に物語っていた。スザクは震える足でナナリーへ近付きそっとその身体を抱き起こす。まだ、ぬくもりすら残っているのにナナリーの魂はもうここにはない。スザクはそっと開かれたままの瞼を下ろし、その身体を横たえる。
「…ごめ、…ッ 守…、な…った…!」
 守れなかった。ルルーシュを、ルルーシュが大切にするものを、守ると約束したのに。



 ルルーシュは出血量こそ多かったものの致命傷に至らず、懸命の治療により一命を取り止めた。アリエス宮襲撃事件にエリア11にいた藤堂とディートハルトも緊急帰国し、黒の騎士団は事件の究明に全力を挙げていた。
 しかし、調べれば調べるほどこの事件には謎が多すぎた。
 まず侵入経路がまったくの不明であること。警護をしていた者全員が意識を失っていたこと、外傷もなければ薬物反応もない。共通しているのは意識を失ったであろう直前の記憶がすっぽりと抜け落ちていたということだった。
 そして、侵入者の不審死。死因は気道に異物も何も発見されないのに全員が窒息死だった。
 まさに事件の究明は暗礁に乗り上げていた。それだけでも大問題なのだが、何よりも問題視されているのは、ルルーシュの意識が回復しないことだ。医師の話ではいつ目覚めてもおかしくないほどに肉体は回復しているが、心がそれを拒絶すれば目覚めることもなく、いずれは衰弱して死に至るだろうとのことだった。

 そうして今日はナナリーの国葬だ。――ルルーシュの意識は回復しなかった。


 スザクは人目つかないようにナナリーの棺が安置されている部屋へ侵入した。震える手で棺の蓋を開ければ、そこには眠っているようなナナリーの姿。
「ナナリー…」
 青白い肌は冷たかった。
「ナナリーは、こうなるって…わかってたのかな…」
 自分は傍に入られないからルルーシュを守って欲しいと、そうスザクに願ったナナリーの言葉はまるであの事件を予期していたようで。そんなことがわかるはずがないのに、何故かそう聞こえてしまうのだった。
「僕は、ナナリーを守れなかったけど…っ ルルーシュを守るって言う約束は、絶対に、守るから…!」
 スザクは冷たいナナリーの手をぎゅっと握り締める。
「だから…、殿下を、連れて…行かないで…ッ」
 勝手な言い掛かりだ。それは痛いほどわかっていた。けれど、他に何に願えばいいのだろうか。どうかルルーシュを連れて行かないでくれと。


(ルルーシュ、殿下…、目を…覚ましてください…)




next




2008/02/01
2008/11/18(改訂)