Burn My World 02 (まずい…完璧まずい) スザクは肩を落とし、とぼとぼと歩いていた。その理由は先の面接にあった。先の面接でスザクは夢の中で仕えていた王と運命的な再会を果たした。その王が本当にルルーシュであるかどうかを確かめる術はなく、そこにあるのはスザクの中にある確固たる確信のみだが。 今まで止まっていたのかと思うほど、強く心臓が脈打った。震えるほどの魂の歓喜が湧き上がり、思わずスザクはルルーシュの手をとり、跪いてその指先に口付けを落としたかった。しかし、あの場でそのような行動をいきなりする訳にもいかず、スザクはその衝動を押し殺しながら、勤めて普通に見えるように面接に望んだのだった。 (記憶、ぜんぜんない。頭真っ白) その上、もう帰っていいと言われてしまった。これはもう落とされるのが確実なのではないのだろうか。連絡は後日と控えていた少女に言われたが、それも建前なのかもしれない。 「はぁ…」 「まあ、大きな溜息ですね」 突然そう話しかけられスザクは慌てて辺りを見渡した。花で彩られた庭園の柔らかな芝生の上に腰を下ろしている少女は、スザクと目が合うとにこりと微笑んだ。おそらくあの少女が声の主なのだろう。 「こんにちは」 「あ、こんにちは」 「どうされたんですか、あんなに大きい溜息をついて」 皇族の庭園でこうして寛いでいることからしてこの少女はおそらく位の高い貴族の娘なのだろう。だとするとただの一等兵でその上ナンバーズであるスザクが話しかけられたからといって、少女と会話するのは失礼に当たるのではないのだろうか。 そんなスザクの困惑を悟ったのか、少女は人の心を落ち着けるような笑顔でスザクを手招いた。 「ご無理にとは言いませんが、よろしかったら私と少しお話してくださいませんか? 私はナナリーと言います。ナナリー、とお呼びください」 「僕は枢木スザクです」 「スザクさんですね。よろしくお願いします」 ナナリーの笑顔を何故だかとても懐かしく感じて、スザクはそれに惹かれるように彼女に誘われるまま彼女の隣に腰を下ろした。 「実は僕、さっき黒の騎士団の面接を受けてきたんです」 「ですからこの離宮にいらしたんですね」 「ええ。でも僕、たぶん落ちました。頭真っ白で何も覚えてなくて、しかももう帰っていいって言われて…」 「まぁ…。でもスザクさん、貴方ならきっと大丈夫。私にはわかります。スザクさんは護って下さる人です」 「でも…」 「スザクさんがそんな態度ではなれるものにもなれませんよ? スザクさんはお兄…くしゅんっ」 ナナリーの言葉は自らのくしゃみで遮られた。暖かい春先とはいえ、少女の華奢な身体ではすぐに冷えてしまうだろう。何か暖めるものを、スザクがそう思ったとき、自身の軍服が目に付いた。 「着心地はよくないけど、我慢してね」 スザクはそう言って軍服の上着をそっとナナリーの小さな肩に掛ける。 「そんな…! スザクさんが冷えてしまいます」 「僕は大丈夫。身体だけは頑丈なんです」 ワイシャツ1枚になったスザクを心配するナナリーを安心させるように、スザクがおどけてみせると、ナナリーはありがとうございます、とはにかんだ。 本当に可愛らしい女の子だな、とスザクが頬を緩めたその時、遠くから誰かを呼ぶ声が聞こえた。どうにも聞き覚えがある声のような気がする。スザクは辺りを見回した。 「…―――っ! ナナリー…!!」 声が近くなり、その声がナナリーを呼んでいるのだと気が付いてスザクがここだと返そうと思ったそのとき、声の主が息を切らしてこちらに向かって来た。 「ナナリーっ!」 「ル、ルルーシュ殿下?!」 こちらに向かってきたのはルルーシュだった。あまりの驚きにスザクが動けずにいると、ルルーシュはスザクの存在に気が付いて反射的に懐に手を伸ばした。 「おまえは…枢木」 ナナリーの肩に掛かったスザクの上着が目に入ったルルーシュは懐から手を放し、ナナリーの元に歩み寄る。 「こんなに身体を冷やして…」 「スザクさんが上着を貸して下さいましたから大丈夫です」 「無理はしないこと、そう約束したよ。ナナリー」 「ごめんなさい」 とても親密そうなその会話にスザクは一体どういう関係なんだろうとスザクは思うが、尋ねるわけにもいかず、スザクは事の成り行きを見守るしかない。ルルーシュは慣れた手つきでナナリーをそっと抱き上げる。 「妹が世話になったな。ついて来い」 「はっ」 反射的にそう返事をしてスザクははっと我に返る。 (いもうと? 妹って…!) 高位の貴族どころか皇族。しかも仕官を希望したルルーシュの妹だったことにスザクは内心驚きを隠せぬまま、スタスタと先を歩くルルーシュを追い駆けるので精一杯だった。 next B.M.Wのナナリーは病弱という設定です。体力がないのですぐに寝込んでしまいますが、歩けるし目も見えます。 2007/12/12 2008/11/15(改訂) |