自覚する想い



Burn My World 17




 スザクは愛想笑いを浮かべながら、どうして自分がこんな状況に置かれているのかと必死で考えていた。目の前にいるのはユーフェミア。第3皇女にして高位の皇位後継者、本来ならスザクが話すことすら許されない相手と、何故こうして向かい合っているのだろうか。
「あ、あの、ご用件とは…?」
「わたくしスザクにお願いがあって」
「お願い、ですか?」
「はい。スザク、わたくしの騎士になってくださいませんか」
 ちょっとそこの荷物を取って、そんな調子で言われたユーフェミアの言葉が理解できず、スザクは固まった。
「騎、士…?」
 誰が、誰の? そんなスザクの困惑を読んだかのようにユーフェミアはにっこりと笑みを浮かべて再び言葉を投げかけた。
「スザクにわたしくの騎士になっていただきたいの」
 唐突な申し出をようやくスザクは理解するが、感情が追いつかない。1度会っただけのユーフェミアが自分を騎士にと望む理由など見当が付かないし、それにユーフェミアの騎士になる自分をスザクは想像出来なかった。
「でも、僕は…」
「ルルーシュのことを気にしているの? 大丈夫、ルルーシュはいいと言っていましたわ!」
「……ッ!」
 その言葉にスザクの胸が酷く痛んだ。出逢って、時間を経て、ようやくルルーシュとスザクとして向かい始めたというのに、ルルーシュは自分が離れていってもいいというのか。そのことが悲しくて仕方がなかった。
 痛みに耐えるようにスザクはぎゅっと拳を握る。力の入れすぎか、それとも心の揺れを映したのか、拳は震えていた。そんなスザクの拳をユーフェミアの白い手がそっと包み込むように掬い上げる。
「それにわたくしの騎士になれば今よりも立場が良くなります。スザクの故郷のためにも力が必要でしょう?」
「僕、は…」
「スザクは故郷のために軍に入ったんでしょう」
 確かに最初はそうだった。繰り返し見る夢に、癒えない空虚。それを埋めるために日本のためなんて陳腐な嘘をついて、軍に志願し、ナンバーズも優遇される黒の騎士団に入団を希望した。
(けど、僕は…)
 ルルーシュと出逢って空虚な心は満たされた。ルルーシュを知って自分は『枢木スザク』になれた。守りたいと、支えたいと思った。これは、スザクとしての感情。例えその思いが一方通行だとしても、その思いは揺らがない。
 スザクはユーフェミアの手をそっと押し、手を離させた。まっすぐにその瞳を見る。
「…申し訳ありません。僕なんかを騎士にと望んでくださったこと、光栄に思います。でも、僕はユーフェミア様の騎士になることは出来ません」
 望むのは力じゃない、たった1人の――ルルーシュのためにただ在りたいのだ。
「どうして?」
「え、」
「どうして、そう思うの?」
 ユーフェミアの騎士になったら、ルルーシュを守れないから。答えはこんなにも簡単なことだ。でも、どうして、ルルーシュを守りたいと強く願うのだろうか。
(それは、僕が…――あの人を 好き、だから)
 心の内で零れた言葉はカラカラのスポンジが水を吸うかのような勢いで、身体を巡っていく。スザクはそこで初めて自覚した。
(僕は、ルルーシュ殿下のことが好きなんだ)
 好きだから、守りたいと支えたいと願う。好きだから、傍にいたい。そんな当たり前の感情がスザクの全てだった。
「ルルーシュ殿下が僕を必要としていなくても、僕が仕えたいと思うのはあの方だけなんです。だから、ユーフェミア様の騎士にはなれません」
「…そう」
 ユーフェミアは思案顔でしばし俯いて、再びゆっくりと顔を上げる。そこにあるのはいつもと変わらぬ笑み。
「わかりました、スザクを騎士にするのは諦めます。…またお会いしましょう?」
 去っていくユーフェミアをスザクは見送り、自身も宿舎へと帰ろうとしたその時、よく知る気配が近くにあることに気が付き、振り返った。
「殿下…?」
 気まずそうに視線を逸らすルルーシュ。どうやらユーフェミアとの会話を聞いてしまった様子だった。
「……おまえが断って俺に皺寄せが来るとか考えなかったのか」
 その言葉によくよく考えてみればユーフェミアは現時点でルルーシュより皇位の皇位継承者だ。スザクの取った行為が主の責任だと非難されれば、当然ルルーシュに迷惑を掻けることになるであろう。
「…すみません。でも、僕は貴方にしか仕えたくない。殿下が僕を必要としてくれなくても…」
「俺は…おまえのことを必要ないと思ったことなんてない」
「え――…?」
 俯いて視線を上げれば、ルルーシュはいつの間にかスザクに背を向けていた。
「勘違いするなよ。ランスロットの能力を手放すのは戦力的に痛いというだけだからな…!」
 漆黒の髪の間から見える白い耳が何故だが赤く染まっていた。これは、少しは自惚れてもいいのだろうか。ほんの少しでもルルーシュがスザクを必要としてくれていると、傍にあることを望んでくれていると。
 あまりの嬉しさに目頭がカッと熱くなっていった。溢れようとする涙に構うことなくスザクはルルーシュの背に声を掛ける。
「…は、い。お傍に、いさせ…て、ください…ッ」
 涙声に驚いたのかルルーシュは振り返り、そしてボロボロと泣くスザクに驚き目を見開いた。しょうがないなと言わんばかりの苦笑を浮かべて、ルルーシュの手がそっとスザクの髪をやさしく撫でる。


( ぼくは あなたが だいすき です )




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2008/01/27
2008/11/17(改訂)