Burn My World 15 「そうでした。わたくし貴方にお聞きしたいことがあったんです!」 「え、ちょ…!」 自分に向いている銃口など見えていないように、彼女はずいっとスザクに近付いた。どう対処していいかわからずスザクはたじろぐ。 「あ、自己紹介が遅れましたわね。わたくしはユーフェミア。ユフィ、と呼んでください」 彼女が名乗ったその名にスザクは聞き覚えがあった。確か、第2皇女であるコーネリアの妹がそのような名前ではなかっただろうか、と思い至ったスザクは向けていた銃を慌てて下ろす。 「ユーフェミア、殿下…でいらっしゃいますか?」 「もう、ユフィって呼んでくださいって言ったでしょう?」 どうやら本当に皇女殿下だったようで、スザクは内心深い溜息を吐いたのだった。 「ではルルーシュ殿下にお会いするためにここまで来られたのですか?」 「ええ、ルルーシュったらわたくしに内緒でエリア11に行ってしまうんですもの。帰っていらしたときはビックリさせてしまおうと思って!」 スザクの中にある皇女のイメージは可憐で優しいナナリーのようなものだったが、ユーフェミアと話しているとそのイメージが如何に偏ったものだったか痛感する。とんだお転婆なお姫様もいたものだ。 「でしたら無理に侵入などしなくても、突然訪問するだけで充分だったのでは…?」 「それはいつものことですもの。やるんでしたら窓からご挨拶ぐらいでないと。…けど、警護の目が厳しくてなかなか奥に行けませんし、結局スザクにみつかってしまいました」 何の訓練も受けていない人間に簡単に侵入を許したら、それこそ何のための親衛隊か。黒の騎士団の名折れである。そう内心思ったものの、それをそのままユーフェミアに言うわけにはいかず、スザクは曖昧に苦笑を返した。 軽やかにステップを踏むようにユーフェミアはくるりとスザクを振り返る。 「スザクはルルーシュの騎士になるんですか?」 「え、」 「本当かどうか聞きたかったの」 ユーフェミアもスザクがルルーシュの騎士になるという噂を耳にしていたようだった。またその話かとうんざりしながらもスザクは笑顔を作る。 「それはただの噂です」 「じゃあ、スザクはルルーシュの騎士にならないのね!」 にっこりと笑顔でそう言われても、素直に肯定するには自分の中にあるルルーシュの騎士になりたいという想いが邪魔をする。なんて返したものかわからずスザクは黙ってしまう。そんなスザクの様子などお構いなしにユーフェミアは言葉を続ける。 「ルルーシュは騎士を持たないもの」 それに似た言葉をカレンから聞いていたが、ユーフェミアの話すその言葉に潜む意味には何かカレンとは違う意味があるような気がした。ぞわりと背筋に悪寒が走った。 「あの…それは」 震える声を無理に振り絞ってスザクはユーフェミアに問い掛ける。ユーフェミアはくすりと無邪気な笑みを浮かべて、白い指先をそっと唇に押し当てた。 「内緒、です」 その言葉を聞いたとき、心臓が早鐘のように脈打ち、額を冷たい汗が伝う。言葉に表せぬほどの焦燥感。この焦燥感がどこから来るのか、まったく原因はわからない。しかし、スザクは確信する。これは警鐘だと。 「あ、そうでした! スザク、エリア11でのルルーシュの様子も教えてくださる?」 「え、ええ…」 そうしてユーフェミアと話しているうちに警鐘は鳴り止んでいた。先程のそれはただの勘違いであって欲しい、スザクはそう強く思った。 「スザク? 交代時間にはまだ早いわよ…って、ユーフェミア皇女殿下ッ!」 カレンはスザクの後ろから現れたユーフェミアに慌てて敬礼する。 「カレン、お久しぶり」 「ユーフェミア皇女殿下におかれましてもご健勝そうで何よりです」 「もう、固い口調は止めてっていっているのに。…ルルーシュはここにいるの?」 「いらっしゃいますが、ルルーシュ殿下は今ナナリー殿下とお話されておりまして…しばらく応接の間でお待ちいただけないでしょうか?」 カレンの言葉にユーフェミアは子供のように拗ねた表情を浮かべる。 「わたくしはお客様じゃないから、ここでいいわ」 「しかし…!」 頑ななユーフェミアの態度にカレンもお手上げといったその時、ドアからルルーシュが姿を見せる。部屋の外が騒がしいのに気が付いたのだろう。 「どうした?」 「ルルーシュ!」 「ユーフェミア、急にどうしたんだ?」 「ルルーシュに会いにくるのに理由なんていりますの?」 笑顔でそう返されルルーシュは仕方ないと言わんばかりに溜息を落とす。 「……俺の自室に移動しよう」 「あら、わたくしここでいいわ。ナナリーもいるのでしょう?」 「ナナリーは微熱がある、無理はさせたくない。少し待っててくれ」 そう言ってルルーシュは一度部屋の中に戻っていく。おそらくナナリーに退室することを伝えにいったのだろう。 「では行きましょう」 部屋から出てきたルルーシュに向かってユーフェミアがそう言えばルルーシュはああ、と短く返し、歩き出す。その後を護衛のためカレンが数歩離れた距離から追う。スザクも追うべきかと歩き始めようとしたその時、ルルーシュがスザクを振り返る。 「枢木、悪いがナナリーについてやっていてくれないか」 「は、はい!」 言われたとおりナナリーの部屋に向かおうとしたスザクは視線を感じてルルーシュ達のほうを振り返る。薄っすらと笑みを浮かべたユーフェミアの視線が一瞬スザクと捉えて、そして離れていった。 next 2008/01/20 2008/11/17(改訂) |