うさぎりんごと無自覚嫉妬



Burn My World 12.5




 意識が回復してからすぐに仕事に戻ろうとするルルーシュに対し扇・藤堂・ディートハルトの連名で殿下絶対安静令が発令され、スザクはルルーシュがちゃんと大人しくしているかを確認する(と、いうよりも監視する)役割を命じられたのであった。
「暇だ」
「はいはい、そうですね」
 ルルーシュの呟きを右から左に流しながら、スザクはするすると器用に林檎の皮を剥いていく。一口大に剥いた林檎を乗せた皿をルルーシュに差し出せば、ルルーシュはぷいと子供染みた動作で顔を横に背けた。
「食べて欲しかったらウサギにしろ」
「えぇ! 皮剥く前に言ってくださいよ!」
「ふん」
 そう言って暇つぶしにと与えられた本に目を落とすルルーシュ。スザクは仕方なく剥いた林檎を自分で食べ始める。
「殿下ってなんか…」
「なんだ」
「結構子供ですよね?」
 スザクのその言葉にルルーシュは固まった。もしこの部屋に2人以外の人がいたのならば、スザクに物申すだろう。それは思っても言ってはいけないことだと。
 スザクは気が付かない、ルルーシュだけが一方的に気まずい沈黙が流れようとしたその時、部屋の扉が勢い良く開いた。
「はぁい! ルルちゃん、元気?」
 明るい声と共に部屋に入ってきたのは、金髪の女性。シンプルだが素材の良いワンピースタイプのドレスを身に纏っている彼女は何処かの貴族の娘だろうか、とスザクは考える。きょとんとしているスザクとは対照的にルルーシュは額に手を当てて大きな溜息を落とす。
「…何の用だ、ミレイ」
「あらら、せっかく可愛らしい婚約者が見舞いに来たっていうのにその態度はどうなのかしら?」
「こ、こ、婚約者!?」
 婚約者、その単語に過剰反応してしまったスザク向かって、ミレイはにっこりと笑みを浮かべる。
「ルルーシュ殿下の婚約者のミレイ・アッシュフォードよ。君は噂の枢木スザク君?」
「え、あ、はい。そうです」
「やっぱり! ナナちゃんからいろいろ聞いてるわ!」
 よろしくね、と明るく言われてしまうとスザクは頷くしかない。黒の騎士団は差別と無縁の生活をしているスザクだが、本来ブリタニアでは差別は国是である。特に皇族の婚約者となれるほどの身分ある貴族の娘ではナンバーズに対する嫌悪があってもおかしくないはずなのだが、それはさすがルルーシュの婚約者というべきなのかそういう様子は一切見られない。
(…あれ、なんか胸がむかむかする?)
 自分で思った婚約者という単語に付属してもやもやとした思いが湧き上がる。これがなんなのかスザクにはわからず、内心首を傾げる。林檎の食べすぎだろうか。
「で、何の用だ」
「やぁねぇ、ホントに見舞いよ? ナナちゃんが自分には大丈夫としかお兄様は言わないから見てきて欲しいって頼まれたっていうのもあるけどね」
「ナナリーが…?」
「無茶するのもいいけど、ナナちゃんに心配かけたら本末転倒じゃないの」
「……気をつける」
 いつも毅然と指示を出すルルーシュがまるで頭が上がらないその様子はすごく新鮮でスザクは目を丸くした。その会話のやり取りにはスザクの知らない月日の積み重ねが感じられてスザクは再び胸に込み上げるもやもやとした気持ちに小さく唸る。
「スザク、どうかしたか?」
「林檎のせいじゃないみたいです…」
「は?」
「あ、いえ、なんでもないです!」
 2人のやり取りを温かいまなざしで見守りながら、ミレイは手に持っていた見舞いの品である花束を花瓶に活けた。
「まあ、元気そうで良かったわ。ナナちゃんには仕事のし過ぎを心配した騎士団のみんなに無理矢理休まされてるだけだって言っといてあげる」
「助かる」
「貸しにしとくわ、ルルちゃん」
 お大事に、そう言いミレイは部屋を後にする。
「スザク、悪いが俺の代わりに下まで見送ってくれないか」
「わかりました」
 ルルーシュに頼まれ廊下に出るとミレイの後姿が見える。スザクはその背中に追いつくように走った。
「あの!」
「あら、どうかした?」
「殿下が、ご自分の代わりにお見送りするようにと」
「まあ。わざわざごめんね」
「いえ」
 ちょうど降りてきたエレベーターに乗り込むと、ミレイは楽しそうに口元に笑みを浮かべながらスザクに話しかけた。
「スザク君、私とルルちゃんは確かに婚約者だけど、スザク君の考えてるような関係じゃないわ」
「え?」
「ルルちゃんは他の貴族の子に結婚迫られるのがめんどくさいから婚約を解消しないだけ。私はそれがルルちゃんの為になるならって解消しないことに同意しただけ」
 突然の言葉を理解しきれずにスザクは戸惑った声を上げるしかできない。
「私ホントは騎士になりたかったの。…でも、アッシュフォードとしてルルちゃんを助けられるのは私だけだから、私は私のやり方を貫くわ。だからスザク君、ルルちゃんを助けてあげてね」
「はい、勿論!」
 迷わずにそう返事をしたスザクに、ミレイは満足そうに頷く。
「…で、安心した?」
「え?」
「私が婚約者って聞いたとき、もやもやっとしなかった?」
「し、しました、けど…」
「……もしかして、気が付いてないの?」
「な、何ですか…?」
 それは嫉妬だと、スザクがルルーシュを想うからこその感情だと端から見たミレイにはすぐわかるのに、本人に自覚はないようだ。教えるべきかと一瞬考えたミレイだったが、すぐに何かを思いついたように含みのある笑みを浮かべた。
「いやー、これもまたよし! 青春を謳歌せよ、青少年!」




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2008/01/07
2008/11/16(改訂)