Burn My World 01 夢を見る。 夢の中の僕は騎士で、王に仕えている。唯一絶対の至高の王。剣であり、盾であり、王の為に騎士は存在していた。王に仕えることが出来たこの運命に感謝してした。 けれど、ある日、全ては砕かれた。 『ご無事ですか、王! …ッ?!』 硝煙と血の臭いが立ち込めていた。敵味方入り乱れた死体が折り重なる中、王は倒れ伏していた。その身は傷つき血に塗れ、すでに息絶えていた。間に合わなかった、騎士は間に合わなかったのだ。悲しみにくれる時間すらも許さないと言うように敵兵の怒声が近付いていた。 『これ以上、御身を敵に弄ばせるなどさせませぬ…! お許しください!』 今の状況では遺体ごと持ち出すことは叶わない、だからその首だけでも敵に渡さぬ為、持ち出そうとする。騎士は剣を振り上げるが、剣は振り上げられたまま動くことはなかった。 騎士は泣いていた。出会い、仕え、王と共に在りし日々が脳裏を駆け巡り、止まらない。騎士が誰よりも尊敬し、愛したその王のその身に剣を振り下ろすなど出来なかった。 『私は…私は…ッ』 そのとき、もう息絶えていたはずの王の唇がそっと言葉を紡いだ。音はなく、それはただ騎士が見間違えたものだったのかもしれない。けれど、確かに王の唇は紡いだ。 ―――許す、と。 王を守ること叶わなかった不甲斐無い騎士に王はその首を落とすことを許したのだ。騎士は泣きながら、その剣を振り下ろした。 「……ッ」 そこでいつも目が覚める。あの夢を見たとき、スザクは必ず泣いていた。そして胸を襲う激しい喪失感と果てない悲しみ。何度見ても夢の結末は変わらず、スザクは夢の中で何度も繰り返し王を失う。 「くそ…っ」 先の戦争で負けた神聖ブリタニア帝国に敗戦した日本は今やエリア11と呼ばれ、差別と侮蔑に塗れた場所になってしまった。廃墟同然のゲットーと呼ばれる区域で息を潜め生きることしか許されず、それから抜け出したいのならブリタニアに頭を垂れ名誉ブリタニア人として生きるしか道はない。 (あの人がいたら、どうするんだろう) 夢の中の王がもしこの世界にいたら、あの王はこの世界を導いてくれただろうか。スザクはふとそんなことを思う。ありもしない夢物語だ。夢の中の存在に祈っても今のこの世は変わらない。だからスザクは名誉ブリタニア人となり、軍に入ったのだ。この世を変えるために。 「…うわ、もうこんな時間だ!」 時計を見たスザクは慌てて飛び起きた。今日はスザクにとって大事な用事のある日だ。 ブリタニア皇族がナンバーズを重用することはほぼない。そんな中で第十一皇子にして現在第八皇位継承者ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアはブリタニア人・ナンバーズに関わらず能力ある者を受け入れる特異な存在だった。故郷日本のため、スザクはより高い地位を手に入れなくてはならない。だから、彼の親衛隊である『黒の騎士団』に志願し、今日はその面接の日なのだ。 軍服に着替え、身なりを整えたスザクは来るように指定された場所――アリエスの離宮に向かうのだった。 やってきたスザクを出迎えたのは同じ年頃の少女だった。燃えるような紅い髪を持つ少女は黒の騎士団の制服に身を包んでいた。 「面接の方?」 「はい、枢木スザク一等兵であります」 「ではこちらへ」 アリエスの離宮は美しいところだった。白と青を基調にしたその建物は華美さはないものの統一されており、そしてあらゆるところに花が溢れていた。 通されたのは誰かの書斎のようだった。壁一面に本棚が設置されており、その中には分厚い本が所狭ましと収まっている。それでもいる人間に圧迫感を与えないのは大きくとられた窓のおかげだろう。 「そこに腰掛けて待っていろとの指示です」 言われるままスザクはソファーに腰掛けた。来賓用であろうソファーに面接に来たただの一等兵を座らせておくとは変わった指示である。それに短期間で着々と継承権を上げているルルーシュ・ヴィ・ブリタニアの命を狙う者は少なくないだろう。面接者を装った暗殺の可能性だって考えられるのに、どうしてこんなにも無防備なのだろう、スザクは思わず考え込んでしまう。 「無防備すぎるとでも思ってる?」 「え?! いや、その…」 「いいのよ。あたしもそう思うし。けど、これはあの人の考えだから」 あの人、おそらくルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのことだろう。彼の人を語る少女の瞳は優しく細められている。慕っている様子が伺えた。 「それに、あたし達が何があってもあの人を守るから」 きっぱりとそういう彼女がスザクには眩しく映る。何度も繰り返し王を失うスザクにそこまで強く守りたいと思う人はいない。ただ、夢の後に残る喪失感を、悲しみを埋めるため故郷の為にと理由を摩り替えているだけだ。 (とんだ偽善者だな、僕は…) スザクがそう心の中で自嘲したそのとき、書斎の扉が開く。ゆったりとした足取りで入ってきた人物は烏の濡れ羽色のような見事な黒髪と宝石のような紫電の瞳を持ち、更に白磁器の肌を黒衣に身を包んでいた。圧倒的な雰囲気を持つ彼こそがルルーシュ・ヴィ・ブリタニアであることは一目瞭然だった。 「枢木スザクだな」 「はいっ枢木スザク一等兵であります!」 スザクは慌てて立ち上がり、彼の方に向かって敬礼する。スザクとルルーシュの瞳が初めて合った。 (そんな…!) 驚きを隠せないまま、スザクはルルーシュを凝視する。容姿が似ているわけでもない、根拠も何もない。けれど、確かに彼は―― (僕の、王) next 2007/12/10 2008/11/15(改訂) |