フィギュアパロ2



「ルルーシュ、こちらは私とペアを組んでいた枢木スザクよ」
「は、初めまして」
 声が裏返らせつつも必死で挨拶するが、当のルルーシュはああ、と淡々とした返事のみで、肩透かしを食らったような気持ちになる。
 ルルーシュはリンクから出てベンチに腰掛けるとスケート靴を脱ぎ始める。ユーフェミアは慌ててベンチへと駆け寄った。
「ルルーシュ、待って!」
「…断る」
「ルルーシュ!」
「ユフィは私なんかのことに構っているんではなく、早く自分の怪我を治すほうに専念したほうが良い」
「私は、これを機に引退します! だから…!」
「それはユフィの事情だ。私に関係ない!」
 突然始まった従姉妹の口論にスザクはついていけず、ただ黙って見守るしかない。
「スザクは才能あるスケーターです! ルルーシュ、貴女と同じように!」
「私は止めたんだ…フィギュアなんて!」
「嘘です! 本当はフィギュアが好きでしょうがないんでしょ? そうじゃなきゃ、あんなふうには滑れないもの!」
「違う、違う…っ違う! フィギュアなんて…私は、嫌いなんだ…ッ」
 ルルーシュは泣きそうに顔を歪めてそう言うと、荷物だけ持って出口の方へと走り出す。
「あ、」
 引き止めようにも、なんて声を掛けていいかわからず、スザクは前へ伸ばした手を下げた。
「スザク、ごめんなさい。ルルーシュも悪気があるわけじゃないの…」
「うん、わかる気がする」
 本当にフィギュアなんて嫌いだと、もう止めたのだというのなら、あんなに辛そうな顔をするわけないし、あんなキレイなジャンプを飛べるわけがない。
 だからこそ気になる。何があそこまでルルーシュを頑なにさせるのか。
「ルルーシュのフィギュアはとても綺麗で、私はそんなルルーシュに憧れてフィギュアを始めたの。けど、ルルーシュは、フィギュアは止めてしまった…」
 ユーフェミアは胸元で手をぎゅっと握り締めながら、スザクに向かい合う。
「お願いスザク、ルルーシュとペアを組んで! 本当に楽しそうにフィギュアをするスザクならルルーシュをもう一度フィギュアの世界に連れ戻せると思うの!」
「僕が彼女をこの世界に連れ戻せるかなんて、わからない。…けど、僕は彼女と滑ってみたいと思う」
「ありがとうスザク! そうと決まったらルルーシュを探しましょう!」
 探す、と言われてもルルーシュが出て行ってしまったのはだいぶ前だ。もうこの近くにはいないのではないだろうか、スザクのその疑問が伝わったのか、ユーフェミアは可愛らしく人差し指を口元に当てて笑う。
「ルルーシュはリンクから出ると運動音痴なんです。だから、大丈夫」



 ユーフェミアに言われ近くを探すと、その言葉通りとなりの公園のベンチに座り込むルルーシュの姿がすぐに見つかった。
「…ルルーシュ、さん」
 スザクの声にルルーシュは俯いていた顔をのろのろと上げる。整った顔には不釣合いな、そして先程は確かになかった掠り傷があった。
「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくださいね」
 持っていた絆創膏を傷の上にそっと貼る。やはり痛むらしくルルーシュは僅かに眉間に皺を寄せていた。
「…すまない」
「いいえ」
 スザクはルルーシュの隣にそっと腰を下ろす。話さなければ、と何か言葉を口にしようとするが何を言えばいいのか迷い、結局は口を閉じてしまう。
 暫らく続いた沈黙。上手い言葉なんてそう思いつくわけがない、スザクはただ自分が思ったことをありのまま聞こうと決意し、沈黙を破った。
「ルルーシュさんは、フィギュアが嫌いなんですか?」
 細い肩が小さく震え、そのままルルーシュは俯いてしまう。
「…すみませ、」
「フィギュアを」
 謝ろうとしたスザクの言葉を遮りルルーシュが小さく呟く。
「私がフィギュアを、やりたと思うなんて……許されない」
 風に掻き消されてしまいそうなほど小さなその呟きは、悲しく響いた。




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2008/12/2〜2009/1/7(拍手にて掲載)