「ルルーシュ、こちらは私とペアを組んでいた枢木スザクよ」 「は、初めまして」 声が裏返らせつつも必死で挨拶するが、当のルルーシュはああ、と淡々とした返事のみで、肩透かしを食らったような気持ちになる。 ルルーシュはリンクから出てベンチに腰掛けるとスケート靴を脱ぎ始める。ユーフェミアは慌ててベンチへと駆け寄った。 「ルルーシュ、待って!」 「…断る」 「ルルーシュ!」 「ユフィは私なんかのことに構っているんではなく、早く自分の怪我を治すほうに専念したほうが良い」 「私は、これを機に引退します! だから…!」 「それはユフィの事情だ。私に関係ない!」 突然始まった従姉妹の口論にスザクはついていけず、ただ黙って見守るしかない。 「スザクは才能あるスケーターです! ルルーシュ、貴女と同じように!」 「私は止めたんだ…フィギュアなんて!」 「嘘です! 本当はフィギュアが好きでしょうがないんでしょ? そうじゃなきゃ、あんなふうには滑れないもの!」 「違う、違う…っ違う! フィギュアなんて…私は、嫌いなんだ…ッ」 ルルーシュは泣きそうに顔を歪めてそう言うと、荷物だけ持って出口の方へと走り出す。 「あ、」 引き止めようにも、なんて声を掛けていいかわからず、スザクは前へ伸ばした手を下げた。 「スザク、ごめんなさい。ルルーシュも悪気があるわけじゃないの…」 「うん、わかる気がする」 本当にフィギュアなんて嫌いだと、もう止めたのだというのなら、あんなに辛そうな顔をするわけないし、あんなキレイなジャンプを飛べるわけがない。 だからこそ気になる。何があそこまでルルーシュを頑なにさせるのか。 「ルルーシュのフィギュアはとても綺麗で、私はそんなルルーシュに憧れてフィギュアを始めたの。けど、ルルーシュは、フィギュアは止めてしまった…」 ユーフェミアは胸元で手をぎゅっと握り締めながら、スザクに向かい合う。 「お願いスザク、ルルーシュとペアを組んで! 本当に楽しそうにフィギュアをするスザクならルルーシュをもう一度フィギュアの世界に連れ戻せると思うの!」 「僕が彼女をこの世界に連れ戻せるかなんて、わからない。…けど、僕は彼女と滑ってみたいと思う」 「ありがとうスザク! そうと決まったらルルーシュを探しましょう!」 探す、と言われてもルルーシュが出て行ってしまったのはだいぶ前だ。もうこの近くにはいないのではないだろうか、スザクのその疑問が伝わったのか、ユーフェミアは可愛らしく人差し指を口元に当てて笑う。 「ルルーシュはリンクから出ると運動音痴なんです。だから、大丈夫」 ユーフェミアに言われ近くを探すと、その言葉通りとなりの公園のベンチに座り込むルルーシュの姿がすぐに見つかった。 「…ルルーシュ、さん」 スザクの声にルルーシュは俯いていた顔をのろのろと上げる。整った顔には不釣合いな、そして先程は確かになかった掠り傷があった。 「ちょっと痛いかもしれないけど、我慢してくださいね」 持っていた絆創膏を傷の上にそっと貼る。やはり痛むらしくルルーシュは僅かに眉間に皺を寄せていた。 「…すまない」 「いいえ」 スザクはルルーシュの隣にそっと腰を下ろす。話さなければ、と何か言葉を口にしようとするが何を言えばいいのか迷い、結局は口を閉じてしまう。 暫らく続いた沈黙。上手い言葉なんてそう思いつくわけがない、スザクはただ自分が思ったことをありのまま聞こうと決意し、沈黙を破った。 「ルルーシュさんは、フィギュアが嫌いなんですか?」 細い肩が小さく震え、そのままルルーシュは俯いてしまう。 「…すみませ、」 「フィギュアを」 謝ろうとしたスザクの言葉を遮りルルーシュが小さく呟く。 「私がフィギュアを、やりたと思うなんて……許されない」 風に掻き消されてしまいそうなほど小さなその呟きは、悲しく響いた。 →next 2008/12/2〜2009/1/7(拍手にて掲載) |