時刻はもう深夜を指していたが、ドアの隙間からぼんやりと漏れる光から部屋の主がまだ起きていることを確認したアーニャは、そっとドアをノックした。 「…誰だ?」 「私」 「アーニャ? どうしたんだ?」 驚くルルーシュにアーニャは片手に抱えていた枕を持ち上げ、それをずい、とルルーシュの方へ掲げて見せた。 「一緒、寝て?」 下から見上げるような形でルルーシュにそうお願いすると、ルルーシュはしょうがないと言わんばかりに苦笑して、アーニャを自室へと招き入れる。変わらず必要な物しか置いていないシンプルなルルーシュの部屋。いつもと違うのはデスクの上に書類が広げられているぐらいだった。 「私は書類を片付けてから寝るから、アーニャは先に寝ててくれ」 「ダメ」 「アーニャ」 ちらり、と横目で書類を確認したが急ぎのものを既に終わっているようだった。だったら、無理に今日やる必要もないとアーニャはデスクに向かおうとするルルーシュの服の裾を掴む。 「もう寝る。一緒」 「…アーニャ」 「ルルーシュが寝ないなら、私も寝ない。待ってる」 「もう、仕方がないな」 結局、アーニャ相手に強く出ることが出来ず、ルルーシュはアーニャの希望通り一緒にベッドに入ることとなった。 備え付けられているベッドは2人で寝ても充分なほどに広い。くっついて寝る必要などないのだけれど、アーニャはルルーシュの胸元に顔を寄せるように傍へ寄る。するとルルーシュは優しい手付きでアーニャの髪を梳いてくれる。心臓の音と、手のリズムがアーニャを優しく眠りへと誘っていく。 「…おやすみ、ルルーシュ…」 「おやすみ、アーニャ」 初めてラウンズとしてルルーシュと顔を合わせたとき、目を奪われたのはそのキレイな髪だった。自分の髪とは違い癖のない見事なまでのストレート。癖の強いアーニャの髪は下ろしているとワックスとつけても何をしても結局は広がってしまいかなりのボリュームになってしまい、アーニャにとって最早癖毛はコンプレックスだった。 自分の理想そのままのようなキレイな髪に、アーニャは思わず手を伸ばした。 「アールストレイム…?」 「…髪、キレイだったから」 「そうか? 私はアームストレイムみたいな髪のほうがいいと思うが」 「でも、広がる」 「ああ、アームストレイムは短いからな。腰ぐらいまで伸ばすととても綺麗になる。私の母もそうだったから」 そう言ってルルーシュはアーニャの髪にそっと触れた。アーニャの髪を見つめるその瞳には微かに哀愁が過ぎった。 「でも、伸ばすの大変」 「そうだな…なら、結んでしまうといい」 断りを入れた後、ルルーシュは持っていたのであろうヘアゴムでアーニャの髪を慣れた手つきで1つに纏め上げた。高い位置で結ばれた髪がふわりと広がり、とても可愛らしい。嫌いなはずの癖毛もただ結んだだけなのにいいと思えた。 「どうだ?」 「…ありがとう」 アーニャが礼を告げるとルルーシュは微かに目元を緩め、優しく微笑んだ。その日から、アーニャにとってルルーシュは特別となっていったのだった。 朝、先に目を覚ますのはアーニャだ。アーニャ自身も低血圧なのだが、ルルーシュのそれはアーニャよりも酷く、ルルーシュが先に目覚めることはない。 「ルルーシュ、起きて」 「…ん、んー…」 ゆさゆさと体を揺するがルルーシュは唸るだけで、目を覚まそうとしない。ルルーシュを無理やり起こすのは気が引けて、アーニャはもう一度声を掛ける。 「起きないと、遅れちゃうよ」 「うー…」 「ねぇ、ルル…、ふぁ」 ルルーシュを起こそうとしているうちにアーニャも再び眠くなってきてしまい、まあいいかと内心呟いて、アーニャは再び瞼を下ろした。 結局2人して遅刻したアーニャとルルーシュだが、ぐっすり寝たため気分は良かった。機嫌の良い2人とは反対に、1人蚊帳の外であったジノは不機嫌だ。 「なんだよ、アーニャ。ルルのとこで寝てたのかよ! ずりぃ!」 「…髪も、結んでもらった」 「自慢かよ! ルル、次は俺も一緒な!」 「お前みたいな馬鹿でかいやつまで来たら狭いだろうが」 「えー!? でかいのは俺のせいじゃないのに!」 ―――これは、私だけの特権。 秘め事 ブログサイト5万HIT感謝企画にて、シオさまよりリクエスト頂きました。ありがとうございました! 2008/05/19 2008/11/19(改訂) |