KMF戦よりも単独で敵陣に侵入する任務の方が主であるルルーシュは、ラウンズの中でも負傷する回数が誰よりも多い。その上、ルルーシュは小さな傷だと自分が判断すると治療もせず放って置くことがあり、(しかもそのせいで傷が化膿し大変なことになったこともあるため)ジノは心配で仕方がなかった。 だから、ルルーシュが任務を終えたその後には怪我をしていないか確認するのが、いつの間にか習慣になっていた。 今日もジノは任務を終えたルルーシュがラウンズの詰め所にやってくるのを今か今かと待っていた。KMFの格納庫に行けばもっと早くルルーシュに会うことが出来るが、ゆっくり怪我がないか確認する前にアーニャがルルーシュをシャワールームに連れて行ってしまうので、ジノはいつも詰め所でルルーシュを待つ。 (怪我してたら治療受けさせて、なかったら用意していたプリンでお茶にしよう) 無表情か厳しい表情が多いルルーシュが、プリンを食べてほんのりと嬉しそうに目元を綻ばすその表情が好きで、ジノは何かにつけてはお茶会を開く。 (まだかなー) そのとき、ドアの開くエアー音がしてジノは勢いよく振り返る。そこにいたのはアーニャ1人だった。 「アーニャ? ルルは?」 胸元で携帯電話を指先の色が変わるほど強く握り締めていたアーニャは、震える声でか細く呟く。 「ルルーシュ…大怪我」 考えるよりも先に体が先に反応した。ジノがただひたすらにメディカルルームに向かうと、ちょうど担架に乗せられたルルーシュが運ばれてくるところで、ジノは駆け寄る。 「ルル!!」 「…、……」 ジノの声にルルーシュの瞼が薄っすらと開く。ルルーシュの瞳がジノを捉えるとルルーシュは何かを呟いた。当てられている酸素ボンベのせいか、それとも声になっていないせいなのかルルーシュの声はジノには届かない。 けれど、唇の動きからルルーシュが何を言いたかったのかジノには伝わった。 ――ただいま ジノ 痛いと言うわけでも、助けを求めるわけでもなく、ルルーシュはそれだけを言い、力尽きたようにその瞼を下ろす。 「ルル…っ」 「ヴァインベルグ卿、治療に入れません! 離れてください!」 その言葉にジノはぎゅっと掌を握り、場所を譲る。そしてルルーシュを乗せた担架がメディカルルームの扉の向こうに消えていくのを、ジノはただ見ていることしか出来ない。ジノは無力感にそのままずるずるとその場に座り込んだ。 それから暫らくしてアーニャがジノの隣にすとんと腰を下ろした。アーニャはじっと治療が行われているメディカルルームを見つめている。 「なあ、アーニャ」 「何?」 「ルルがさ、さっき俺に言ったんだ。ただいまって」 「うん」 「自分がスゲー痛くて辛いくせに弱音も助けてとも言わないで、ただいまって言うんだ」 「…うん」 ルルーシュが何故あの状況でただいまと言ったのか、ジノにはなんとなく予想がついていた。きっと昔、ジノがルルーシュにおかえりと言わないと寝れないとそう言ったから、ルルーシュは自分を待つことはないとそういう意味を込めてただいまと言ったのだろう。 哀しいほどに優しいルルーシュ。その優しさをほんの少しでも自分に向けてくれればいいのに、ルルーシュの優しさはすべて誰かのためにしかない。 「アーニャ、俺、ルルを守りたい」 自分を守る術を知らないルルーシュを守ってあげたいと、ジノは心の底から思う。 「守りたいんだ…!」 「私も、」 メディカルルームに向けられていたアーニャの目がじっとジノを見る。 「私も一緒。ルルーシュ、守る」 ジノもアーニャも思いは一緒だった。2人は頷き、誓い合うように互いの拳を合わせた。 翌日、目覚めたルルーシュが体を起こすと、ジノが壁に体を預けた姿で、アーニャはベッドの端に体を預けた姿で、眠っていた。自室に帰らずずっとルルーシュの傍にいたであろう2人はまだラウンズの制服のままだった。 「馬鹿者…風邪ひくぞ」 ルルーシュはそう言いながら2人にそっと毛布を掛ける。傷がまだ鈍い痛みを訴えるが、それよりも胸に込み上げる熱い思いがルルーシュを満たしていた。 「……ありがとう」 ―――俺たちが、ルルーシュを守るから。絶対に! 愛しき魔女 2008/05/14 2008/11/19(改訂) |