ただ愛を叫べ!



「ただいまー…って、ちょ、ルルルルルーシュ?!」
「おかえり。ルが3つほど多いぞ、スザク」
 スザクには目下、大きな悩みがある。その悩みの原因とは、そう幼馴染で想い人でもあるルルーシュのことだ。何故、ルルーシュが悩みの原因となるのか、それは全てルルーシュの危機感のなさと、ある方面にだけ非常に鈍感なことが大きな問題だった。
「な、なに、してるの…?」
 降りしきる雨の中、部活を終え自宅に帰宅したスザクの目の前に現れたのは、家族ではなくルルーシュで。ルルーシュがスザクの家にいることが大きな問題ではない、問題はその格好だ。
「ああ、急に雨に降られてあわてて家に帰ったんだが、鍵を忘れて困ってたら、おばさんが上がってお風呂を使っていいって言うからお言葉に甘えさせて貰った。あ、おばさんは買い物に出掛けたぞ」
「ああ、そうなんだ…あのさ、その格好…」
 言葉通り先程まで風呂を使っていたであろうルルーシュの髪はまだ湿りを帯びていて、頬も薄っすらと上気していて、健全な青少年であるスザクにとって動揺せざる得ないほどの色香を放っている。それだけでも問題なのだが、それ以上に問題なのはルルーシュの格好だ。
(なんで僕のワイシャツ着てるんですか…!)
 今のルルーシュの格好は、下着の上にスザクのワイシャツを着ただけだ。好きな子が自分のワイシャツ1枚なんて男として1度は夢見るシチュエーションだが、告白出来ず未だ幼馴染としての関係を続けているスザクにとっては目の毒でしかない。
「コレか? 服が乾くまで借りようと思ったんだが」
 ダメだったか、と問いながらルルーシュが襟元をくいっと引っ張る。2つほどボタンを留めていないせいもあり、軽く引っ張っただけなのにルルーシュの胸元が顕わになる。
「お願いだから! ジャージでも何でも来ていいから、ちゃんと服着てー!」
「…しょうがないな、わかったよ」
 スザクの必死な叫びにルルーシュは何処か拗ねたような表情を浮かべてしぶしぶ承諾し、2階のスザクの部屋へと歩いて行く。階段を上るルルーシュの見えようで見えない後姿をつい目で追ってしまう自分に、そしてどこまでも無防備で鈍感なルルーシュにスザクはがっくりと肩を落としたのだった。


 *  *  *


「…それ、誘われてんじゃねぇの?」
 昨日の出来事をぼそぼそと相談されたジノは購買の焼き傍パンをかじりながらそう返した。どう考えても、そうとしか思えない。
「それはない、絶対」
「えー、でもさ、普通に考えてみろよ?」
「ルルーシュは普通じゃないんだ!」
 スザクは力いっぱいそう宣言した。好きな女を普通じゃないと言い切るスザクも充分普通ではないとジノは思ったが、スザクの勢いに言葉も出ない。
「僕のこと男だと思ってないから、あんなことが出来るんだよ…」
 肩を落としぶつぶつと呟くスザク。目の前で(しかも食事中に)いじいじされると正直ものすごくウザったい。冷たいようだが、男同士の友情なんてそんなもんだ。
「告白でも何でもしろよー」
「でも、振られても、家族同士が仲いいから絶対顔合わすし…、気まずくなると…」
「そんなんじゃ、いつまでたっても同じじゃんか」
「わかってる…わかってるんだけど…」
「あー、もう、いっそのこと押し倒しちまえよ! そうすりゃ流石に意識すんだろ!」
「余計出来るわけないよ!!」


 スザクがジノに相談(?)している頃、ルルーシュは憮然とした顔でカレンと向かい合っていた。
「…また失敗した」
「ええそう。…って、アンタ本当にやったわけ!?」
「…なんだよ、カレンがやってみろって言ったんじゃないか」
「いやー…うん。まさか本当にやるとは…。その度胸、尊敬するわ」
 苛立ちに任せてルルーシュはお弁当のプチトマトをフォークでぐさりと突き刺した。スザクに無防備だの鈍感だの称されるルルーシュだが、別に何も考えずにそんなことをしているのではない。考えて、あえてやっているのだ。そう、ルルーシュもまたスザクが好きなのだ。
(くそ…っ! スザクの鈍感体力馬鹿! へたれ!)
 心の中でスザクを罵倒しながら苛々とした様子でプチトマトを咀嚼するルルーシュにカレンは、呆れたように溜息を零す。
「…やっぱり、カレンぐらい胸がないとダメなのか…?」
 そう呟いて自分の胸とカレンの胸を見比べてルルーシュは肩を落とす。ルルーシュの胸は小さくないが、カレンと比べるとどう考えても分が悪い。
「ルルーシュぐらいがちょうどいいって」
「それはカレンが胸があるから言えるんだ! あるから言える傲慢だ! 私は抗議するぞ!」
「そんなこと言ってる暇があったら、ルルーシュから告白すればいいじゃない」
「やだ」
「そんなこと言ってると、誰かにスザクとられちゃうわよ?」
「それはもっと嫌だ! …けど、けど……告白はスザクからが、いい」
 夢を見過ぎだと言われてもずっと憧れていた。好きな人に、スザクに告白される日を。
「それにスザクは優しいからきっと私が告白したら私が可哀相だからって、断れない。それでいつか本当に好きな人が出来て私の前からいなくなるんだ…」
「考え過ぎよ」
 自分の空想に本気で落ち込み始めたルルーシュにカレンは再び溜息を零す。
「もういっそ押し倒しちゃいなさいよ」


  *  *  *


 その日の夕方、ルルーシュはこっそりとスザクの部屋に忍び込む。電気が付いておらず、部屋の中は薄暗い。一瞬、スザクが帰っていないのかとも思ったが、そうではなかった。スザクはベッドの上で眠っていた。
「…スザクー?」
 呼んでみるが、スザクが起きる気配はない。ルルーシュはゆっくりと音を立てないようにベッドに近付いた。覗き込んでみると、スザクはいつもよりあどけない表情で眠っており、ルルーシュは目元を和らげる。
 ベッドに肘を乗せ、そっと柔らかいスザクの髪を梳く。今触れている髪も、自分を呼ぶ声も、大きな手も、スザクを構成する全てが好きだという気持ちが抑えきれない。
(どうしたら、私を好きになってくれる…?)
 そのとき、昼のカレンの言葉が蘇る。
『もういっそ押し倒しちゃいなさいよ』
 ごくり、と思わず唾を飲み込んだ。心臓が緊張してバクバクいっている。
(押し倒す…)
 そうすれば何か変わるだろうか、変わる切っ掛けになりえるのだろうか。ルルーシュはあまりの緊張に震える手足をギクシャクと動かしてスザクのベッドに乗り上げ、体を跨ぐようにしてスザクに覆い被さる。
(…顔、近い)
 そこまでしてみたはいいが、それ以上どうしていいかあまりの緊張に頭が回らない。止めよう、そう思い、ルルーシュが退こうとしたとき、手首をぎゅっと掴まれる。
「スザク?」
「…あのさ、ルルーシュ。僕も男なんだよ」
 いつもより低いスザクの声と共に体がグイッと引っ張られ、あっという間にスザクとルルーシュの位置が入れ替わった。あまりの速さに理解がついて行かない。
「わかってないみたいだね…。僕なら大丈夫だとでも思ってるの? そう思ってるなら大きな間違いだよ。僕は確かにルルーシュの幼馴染だけど、けど、男なんだ。いい加減…って、ル、ルルーシュ!?」
 いつもとは違う冷たい声にルルーシュは思わずぽろり、と涙を零す。1度零れてしまえば、それは勢いを増し、止まらなくなる。
「…わ、わた、し、はっ ただ! …スザ、…にっ 好きに、なって…貰いた…っ」
 嗚咽混じりで上手く言葉にならない。けれどスザクに嫌われたくないという一心でルルーシュは繰り返す。ただ、好きになって貰いたかったのだと。スザクが好きなのだと。
「…僕が…好き?」
「そうだっ …じゃなきゃ、あ、あんなことっ しな、しない…!」
 もう恥も外聞をかなぐり捨ててルルーシュは思ったことを口にした。もうスザクの顔を見ていられなくて、瞼を強く下ろしたそのとき、ルルーシュの体がぎゅっと抱き締められた。
「…泣かして、ゴメン。ルルーシュ」
 そういうスザクの声はいつもと同じように温かくて、ルルーシュはそろそろとスザクを見る。
「僕もルルーシュが好き。ルルーシュが僕のこと男として見てないからあんなことしたんだと思って…」
 ルルーシュは信じられないという思いで一杯だった。恐る恐るスザクの頬に手を伸ばすとスザクは嬉しそうに微笑む。
(本当、なのだろうか…?)
 自分の都合の良い夢ではないのかと疑ってしまう。だから、もう1度言って欲しかった。
「ごめんね、ルルーシュ」
「…もう、いい。だから、もっと…」
 ルルーシュの言わんとすることを察したスザクは、柔らかな声で囁いた。

「好きだよ、ルルーシュ」




ただ愛を叫べ!





ブログサイト5万HIT感謝企画にて、暁さまよりリクエスト頂きました。ありがとうございました!




2008/05/20
2008/11/19(改訂)