あなたしか見えない



(やっと…ここまできた)
 日本を失い、罵倒されること覚悟で名誉ブリタニア人になり軍に入り、ランスロットのパイロットになって同胞を殺して、たくさんの矛盾を繰り返してようやくここまで辿り着いた。
「汝、枢木スザクをナイト・オブ・ラウンズと認めよう」
「イエス、マイ・マジェスティ」
 ナイト・オブ・ラウンズ。皇帝直属の帝国最強の騎士の座にようやく上り詰めたのだ。
 差別が国是となるこの帝国で初めての元ナンバーズである名誉ブリタニア人のラウンズ叙任に、直接異議は申し立てないものの皆、不満に思っているのだろう。本来なら拍手が沸きあがるべきこの場面であるが、あるのは水を打ったような沈黙。
(認められていなくても構わない。俺は、日本を取り戻す…!)
 スザクが周りからは見えぬようにぎゅっと拳を握り締めたそのとき、誰かの手を叩く音が沈黙を破った。反射的にスザクは顔を上げ、音がした方を見つめる。
「―――!」
 思わず、息を呑んだ。
 沈黙の中、凛と立つ少女がまっすぐにスザクを見つめ、1人拍手をしていた。少女の洗練された人形のような容姿も勿論スザクの視線を奪うが、それよりも何よりも印象的なのは強い意思を映した少女の紫水晶の瞳がスザクを捕らえてはなさい。
 少女の拍手が切っ掛けとなり、次第に拍手が会場に響き渡る。けれど、それんなことよりもスザクの意識はその少女から離れなかった。



 ラウンズの詰め所でスザクはぼんやりと物思いに耽っていた。思い浮かぶのはあの少女のこと。あの会場にいたのだから、きっと高位の貴族か、もしかしたら皇女なのかもしれない。いくら考えても少女のことがわかるわけではないのに、思考が止まることはない。スザクは1人溜息を零した。
「スザク、溜息なんか吐いてどうしたんだよ?」
「ジノか…」
「こりゃまたえらく暗いなー、ホントどうしたんだよ?」
 強さを絶対とするラウンズではナンバーズだからと差別されることはほとんどない。そんなラウンズの中でもジノは特にそういうことを意識しない性格で、スザクに対しまるで仲の良い有人のような態度で接してくる人間だった。ちなみにそうは見えないが、名門貴族出身である。
「……ジノ、お前さ、皇族とか貴族とか詳しいのか?」
「へ? そりゃ、それなりに知ってけど」
「じゃあ、叙任式で最初に拍手してた…」
「ああ、ルルーシュ殿下」
 えらくあっさりと答えが返ってきて、なんだか肩透かしを食らったような気分になったが、そんなことよりもせっかく知った名前を忘れないようにと、スザクは心の中でルルーシュと彼女の名前を繰り返した。
「しっかし、あの方らしいよなぁ」
「何がだ?」
「拍手のことだよ。ルルーシュ様って本当にナンバーズとか区別しない人だから。そいつの能力をちゃんと認めるし、お偉い貴族相手でも使えないときはばっさり切るし」
 その後も招集が掛かるまで延々とジノによるルルーシュの話が続いたが、スザクの耳に残ることなく流れていく。
(もう1度、会いたい)
 聞くのではなく、会って自分でルルーシュのことを知りたいと望んでしまっているのだということに、スザクは気が付いた。
(情けない。まるでガキの初恋みたいだ)
 そう、思ってスザクは思わず口元を押さえた。顔が熱くなってきて、きっと鏡で顔を見れば真っ赤になっているのだろう。
「うそ…だろ」
 口から否定の言葉が漏れるが、自分の感情はそうではないことなど自分自身が1番よくわかっていた。みたい、ではなくて、そうなのだ。スザクは一目見ただけの彼女に恋してしまったことを自覚した。



 それから暫らくして、スザクの元に(正確にはランスロットを含めたKMFの開発チームの)視察が来るという連絡を受けて、スザクはランスロットの格納庫で待機していた。
「今日、来るのはどなたなんですか?」
「ふっふー、うまくすればランスロットの予算をもっと上げてくれるかもしれない方だよ〜」
 ロイドの説明ではまったく誰が来るのかわからないが、元よりロイドからまともな返答が返って来るとは思っていなかったので、スザクはおとなしく待機しようとパイプ椅子に腰を掛けた。
「どうぞ、こちらです」
 セシル声と同時にドアが開く。スザクは入ってきたその人物に目を奪われる。急に立ち上がったせいで、パイプ椅子が倒れたが、そんなことに構っている余裕なんて吹き飛んでいた。
「ルルーシュ殿下…」
 変わらず強い意思を移した瞳がスザクに向けられる。それだけで胸が高鳴ってしまうなんて、自分の体はなんて正直なんだとスザクは思った。
「あ、失礼しました。自分は…」
「知っている。枢木スザク、だろう?」
「はい!」
「お前の活躍は聞いている。ランスロットの性能も高いが、それを生かすパイロットがいなければ、所詮KMFなんて鉄の塊だからな」
 少しだけ目元を和らげてルルーシュがスザクを労う。会いたいと、何度も願ったその人が今、自分に向かって話しかけているのだと思うと、熱い想いが込み上げてくる。その衝動に後押しされるように、スザクは声を上げた。
「ルルーシュ殿下」
「なんだ?」
「愛してます」
「スザク君!?」
「わーお、熱烈だねぇ」
 もしかしたら不敬罪に問われてしまうかもしれない、と言ってしまった後に思ったが、言ったことを後悔する気持ちはまったくなかった。どうしようもない、本心だった。
「…空気も読めないのか、お前は」
 そう言うルルーシュの顔は真っ赤だった。それがなんだか嬉しくてスザクはもう1度、まっすぐにルルーシュを見つめて想いを告げる。

「愛してます、ルルーシュ殿下!」




あなたしか見えない





ブログサイト5万HIT感謝企画にて、いつきさまよりリクエスト頂きました。ありがとうございました!




2008/05/16
2008/11/19(改訂)