悪と呼ばれた王の物語



・ゼロルル双子でルルは♀
・笑動画のボカロオリジ曲『悪ノ娘』『悪ノ召使』のパロです
・↑に忠実ではありません

 …大丈夫な方のみお読みくださいませ!








 むかしむかし、栄華を極めた帝国がありました。その帝国の3番目の皇子は残虐非道の限りを尽くし、その王座を手に入れました。  しかし、血塗れの玉座に安息はありません。怒れる群集たちの手によって若き王は捕らえられ、処刑されたのでした。こうして帝国は平和になったのでした。めでたし、めでたし。


 そんなよくある昔話。けれど、語られることだけが全てではない。当事者しか知らない哀しい真実の物語。





 ゼロが帝国の皇子としてこの世に生を受けたときには既に上に2人の兄がおり、特に1番目の兄が優秀だったこともあり、ゼロが玉座を継ぐ可能性は皆無に等しかった。けれど、そのことに不満はなかった。一生懸命勉強し、兄の補佐として皇族の責務を果たしていこうとそう思っていた。あの日、彼女に出会うまでは。


 書斎にある机の一番下の引き出し。普段は使わないそこの整理をしようと思いったのは単なる気まぐれだった。妙に真新しい底板を不審に思って剥がすと、そこには1通の封筒があった。
「これは…母さんから…?」
 それは数年前に儚くなった母からの手紙だった。ゼロは恐る恐るその封を切り、手紙に目を落とす。
「なん、だって…?」
 そこに書かれていたのは、ゼロには双子の姉がいるということだった。生まれてすぐ双子は不吉とされ、姉――ルルーシュは存在を抹消され地下牢で幽閉されているのだと。皇帝の決定を覆すことが出来ず、ルルーシュを差し出してしまったこと、その罪の重さに耐え切れず、こうして手紙を残してしまったことを母はただひたすらに謝り続け、その手紙は終わった。
 信じられない、そんな思いでいっぱいだった。けれど、母が嘘を告げるはずがない。ならば、これは真実なのだろうか。
 ゼロは迷い続け、ある日、決意する。囚われているルルーシュを探してみようと。
 母の手紙に書かれた断片から場所を推測し、ゼロはしらみつぶしに探していった。しかし、ルルーシュの姿を見つけることは出来なかった。もうこれで諦めよう、そう思い行った場所で、ゼロは彼女に、出会う。
 地下牢の小さな小窓から青白い月の光が差し込んでいた。定期的に掃除がなされているのだろうそこはそんなにも汚れてはいないが、決して良い環境とはいえない冷たい石畳に囲まれたその場所に彼女はいた。
「誰だ?」
 振り返った彼女はゼロと同じ顔だった。違うのは瞳の色と、髪の長さぐらいだろう。一目見た瞬間に、わかった。締め付けられるような、胸の痛み。
「…、ゼロ?」
「ルルーシュ…っ」
 ようやく出会えた片割れを抱き締めたいのに、2人の間には冷たい鉄柵が立ちはだかる。ゼロは鉄柵の間から、必死に手を伸ばした。しかし、ルルーシュは動かない。
「ルルーシュ?」
「ゼロ、ここへ来てはいけない。早く戻れ」
「何故!?」
「私は存在しない…これは皇帝陛下が決めたことだ。逆らってはいけない、お前の立場が悪くなる」
 諦観した笑みを浮かべ、ルルーシュはそうゼロに言い、早く戻れと再度促した。
「…ふざ、けるな…!」
 ようやく出会うことが出来た片割れと、どうしてまた別れなくてはならないのだろうか。ただ、たまたま双子として生を享けたせいで、存在を消され、冷たい牢に囚われ続けなければならない。仲の良い腹違いの妹は、愛され煌びやかな世界で生きているのに、どうして、ルルーシュだけが日陰に甘んじなければならないのだろうか。
「…なら、俺が皇帝になってやる…! ルルーシュを否定する世界など壊して、俺がルルーシュをここから出す! 絶対にだ!!」
「ゼロ…」
「だから、ルルーシュ待っててくれ」
 伸ばされたままのゼロの手に、ルルーシュの手が恐る恐る迷うように伸ばす。ゼロは細いその手をぎゅっと握り返した。



 その日から、ゼロは悪逆非道の限りを尽くし、そうして宣言通り皇帝の座を手にするのだった。



「ルルーシュ!」
 皇帝の座を手に入れたゼロはすぐにルルーシュを牢から開放した。ようやく鉄柵越しでなく、直接出会えることの喜びに、ゼロはただただ喜んでいた。
「ゼロ!」
 しかし、ゼロはルルーシュを出すその為だけに、たくさんの罪を背負ってしまった。貧困に喘ぐ国民の積もり積もった怨嗟の声、今こそ立ち上がるその時だと、白の騎士の号令に鬨の声がこの王宮にも響いていた。もう、この国は終わる。
「ゼロ…ありがとう」
「礼なんていい。ああ、ルルーシュ、これでずっと一緒にいられる!」
「……ゼロ、もう、お別れの時間だ」
「は…?」
 呆然とするゼロを尻目にルルーシュは与えられていた質素なドレスを脱ぎ、ゼロに差し出す。
「私の服を着て、今すぐここから逃げろ」
「どう、して…!」
「聞こえるだろう…この国の終わりが。もう、時間がない。大丈夫、私達は双子だ。誰にもわからない」
「…どうして、ルルーシュが残る!? 残るべきは俺だろうが!」
 せっかく触れ合えた片割れを身代わりにして、自分だけ逃げるだなんて出切るわけがない。ゼロは嫌だと頑なに首を横に振る。初めて見せた幼い子供のようなその仕草に、ルルーシュは慈愛に満ちた手付きで、そっとゼロの髪を梳く。
「私の最初で最後のお願いだ。ゼロ、逃げてくれ」
「ルルー…シュ…っ!」
 零れる涙に構うことなく、二人は互いを硬く抱きしめた。それが、最後の抱擁だった。



 王宮は陥落し、ついに悪の王は捉えられたのだった。



「お前の処刑は明日の午後3時だ。それまで今までの悪行を悔い改めるんだ」
 牢に捕らえられた『王』の元に白い騎士がやって来て、処刑の時間を告げる。自らの命の刻限を告げられた『王』は視線を逸らすことなく、まっすぐに騎士を見返した。悔いることなどないとでも言いたげなその視線は、噂に聞く傲慢な悪の王そのものだった。
「お前は…ッ!」
「待ってください!」
「姫、どうしてここに?」
 駆け寄ってきたのは春の花のように可憐な少女だった。姫と呼ばれた少女は悲しげに眉を顰めている。
「…お兄様、どうしてこんなにも変わられてしまったのですか…? あんなにも優しい方だったのに…!」
 少女は『王』に近付き、泣きそうな声でそう尋ねるが、それに返される言葉はなく、ただまっすぐに視線が向けられるだけだった。
「…え、お兄様…瞳の、色が…」
 あなたは誰?そう問われて、『王』は小さく溜息を零し、視線を落とした。そして再び面を上げたときには、そこに『王』はいなかった。
「私は、あの子の双子の姉だ」
「そんな…お兄様が、双子?」
「そう、私は生まれたときにその存在を皇帝によって消された者だ」
「じゃあ、王は君を身代わりにして逃げたのか…!」
「違う!」
「なら、どうして君がここにいて、王がここにいない!?」
「あの子の罪は私の物だ。ならば私が裁かれればいい。私が、そう望んだ」
「君の、罪…?」
「そうだ。あの子は王となって私を牢から出すために罪を負った。全て、私のために作られた罪、私が贖うべき、罪だ」
 絶対に外に出すから、そうゼロに言われた運命のあの日、ルルーシュはそれがゼロの為にならないと知っていながらも、その手を取ってしまった。本当は諫めなければならなかったのに、出来なかった。
 存在してはいけないと理解していたつもりだったけれど、本当は違った。生きたかった、だから、ゼロの言葉が嬉しかった。ゼロの隣で生きたいと欲が生まれてしまった。
 そうして、ゼロにたくさんの罪を背負わせてしまった。
「…私のために罪を作ってしまったあの子の人生をここで終わりになど、させない! 私があの子の未来を守ろう。私の命を賭して」
 それが、ルルーシュがゼロに出来る唯一の姉らしいことだった。



――たとえ世界中の全てが君の敵でも 私が君を守るから君は何処かで笑っていて――




 午後3時を告げる鐘が、響き渡る。帝都から遠く離れた森の奥でゼロはその音を聞いた気がした。
「ルルーシュ…?」
 引き裂かれるように胸が痛み、ゼロは胸元をぎゅっと握り締め、蹲る。この痛みが何を意味しているか、ゼロにはわかっていた。ゼロは1人、咽び泣く。
「ルル…、ルルーシュ…ッ」






  誰も知らない、哀れな双子の物語―――。




悪と呼ばれた王の物語





2008/05/06
2008/11/19(改訂)