世界より欲しいもの



 どこか、遠いような近いような、どこからか誰かが呼んでいた。
 途切れていた意識がふわりと浮上する。盲目であるナナリーは肌に伝わる感覚から今いる場所が自分の知っている場所ではないこと、そして自分が拘束されていることに気が付いた。
「なんだこんな終わりかぁ」
 突然横から声が響いた。ナナリーはこの声を知っていた。C.C.似よく似た気配のする、おそらくだが自分をこの場所へと連れてきたであろう少年。
「ナナリー、こんなとこまで来てもらってなんだけど、もう終わっちゃったみたい」
「何が、ですか…?」
 少年の言葉に湧き上がる不安を隠せないまま、ナナリーは震える声で問い返す。

「ルルーシュ、もう死んじゃうから」

 少年の言葉を理解できなかった。いや、理解したくなかっただけなのかもしれない。頭が真っ白になって何も考えることが出来ない。
「ルルーシュには期待してたんだけどな…仕方ないか」
 愕然とするナナリーに構うことなく少年は1人呟く。
「もう用事なくなったから、ここでお別れだね、ナナリー」
 じゃあ、そう少年の声がしたと思った瞬間、ナナリーの体を拘束していた威圧感は消え去った。ナナリーはそのまま車椅子から崩れ落ちる。
「…待って! どういうことなんですか!?」
 叫びは反響するだけ、答えが返ってくることはない。少年は本当にいなくなってしまったようだった。
「……お兄様」
 腕の力だけで身体を引きずって少し前に進もうとするが、障害を追ってから運動と無縁の生活をしていたナナリーの細い腕では進むどころか、状態を起こした姿勢を保つことすら難しかった。
「お兄様…!!」
 聞き分けのない子供のように何度もルルーシュを呼ぶけれど、いつものようにルルーシュの温かい手がナナリーに伸ばされることはない。
 どうして!ナナリーは心の中で叫ぶ。いつだってナナリーが望むものをどうして奪っていくのだろうか。世界を信じようと思えば、どうして世界は裏切るのだろう。
「…おにい、さま…ッ」
 辛くて、悲しくて、憎くらしくて、ナナリーは涙が止まらない。ルルーシュが大事にしてくれた白い手が汚れるのにも構わず、ナナリーは床に拳を何度も叩き付けた。
 ――ルルーシュ、もう死んじゃうから
 ナナリーはふと少年の言葉を思い返した。少年はルルーシュが死んだとは断定しなかった。もうすぐ死んでしまうと言ったのだ。
(間に合いますか、お兄様)
 大切なルルーシュを失わないために、足掻く時間が経った少しでも残されているのなら、ナナリーがやるべきことはひとつだ。
「今度は、私が…お兄様を守る!!」
 決意と共に、ナナリーはその閉ざされていた瞳を開いた。


 ナナリーが再び開いた眼でみたものは、母であるアリマンヌに良く似た面影を持つルルーシュが血に濡れ、倒れ伏している姿だった。アリマンヌの命を奪い、自分から自由を奪ったときを同じ色の血がルルーシュを染め替えようとしている。
「お兄様ッ!」
 足を縺れさせながらも、ナナリーはルルーシュに駆け寄った。ルルーシュの薄い胸が微かにだが上下していることにナナリーは安堵する。
「ナナリー…ちゃん?」
「カレンさん、ですか?」
「ええ、あなた…目が…」
 盲目の少女であったナナリーが急にそうでなくっていることに対して、カレンは驚いているのだろう。ナナリーはカレンをまっすぐに見つめる。
「私は覚悟を決めました。…カレンさん、協力してください」
 ゼロの持つ圧倒的なカリスマと同様の有無を許さぬ声色でナナリーはカレンにそう言った。



 カレンの紅蓮二式によってルルーシュは大きな治療施設へと搬送することに成功した。手術は成功し後は意識の回復を待つだけだ。しかし、ルルーシュの受けたダメージは大きく、もしかしたら一生目覚めないことも覚悟しなくてはならないのだという。
 ICUの前でナナリーはじっとルルーシュを見守っていた。ルルーシュはいつ目覚めたとしても傍にいたくて、ナナリーはそこから離れようとはしなかった。一心不乱にその場にいることに執着するナナリーをカレンは心配していた。
「ナナリーちゃん…」
「カレンさん、頼んだもの持ってきていただけましたか?」
「ええ、でもこれで何をするの?」
 頼まれたのは何の変哲もないただのハサミだ。ハサミを受け取ったナナリーはカレンに礼を告げると無造作に自分の髪にそのハサミを差し込んだ。
 ばさり、とナナリーの綺麗の伸ばされた髪の一房が床に落ちた。
「ちょ、どうして…!?」
 カレンに構うことなくナナリーはどんどんハサミで髪を切り落としていった。最後にはナナリーの髪はカレンよりもルルーシュよりも短くなっていた。
「お兄様に守られるナナリーなんていらないんです」
「ナナリーちゃん!」
「違います。今日から私は……僕は、ロロ。ロロ・ランペルージです」
 一方的に守られるナナリーではない、ルルーシュを支え守り共に戦うロロになるのだ。何よりも大切なルルーシュを失わないために。




(早く目を覚まして。今度は一緒に世界を壊そう―――)



世界より欲しいもの





 R2スタート前の妄想でした(笑)




2008/01/21
2008/11/19(改訂)