生徒会の仕事は忙しい。その内容は日常の細々とした書類や企画の会議など多岐に亘る。
 ホクトは処理し終わった書類を職員室に届けた後、一息つくためにホクトは屋上へと足を運ぶ。本来、ここの屋上は立ち入り禁止となっているのだが、ホクトはこっそりパスワードを解読して自由に出入りできるようにしてしまったのだ。
 その為、屋上はホクトにとって休みたい時の格好の場所となっていた。

 パスワードを打ち込んで屋上に出れば、沈みかけた夕陽がば眩しくてホクトは目を細めた。
 春ももう終わる問いこの時期だが、さすがに夕方になると少しばかり肌寒い。けれど、その冷えた空気が心地よくて、ホクトは大きく空気を吸い込んだ。
「………、ん?」
 澄んだ空気に混じった独特の臭いが鼻についた。
 不思議に思って辺りを見渡すと、屋上への入り口の裏から微かに上る紫煙。誰もいないはずなのに、と怪訝に思いながら覗き込むとそこには意外な人物がいた。
「…ブラッドリー、先輩」
「なんだ、気がついたのか」
 立ち入り禁止の屋上で、しかも喫煙しているところを見つかったのに、ルキアーノは平然のした態度でそう返した。
「みつかりたくないのなら、煙草を消してください。あれはわかりますよ」
 ホクトの言葉をふーん、と聞いているのかいないのかわかない相槌を打ちながら、短くなった煙草を横に置いてあった缶コーヒーの中に落とし、新しい物に火を着ける。
「…煙草を隠すとかしないんですか」
「どうしてだ?」
「知らないかもしれないですけど、俺、生徒会の…」
「知ってるさ。風紀の枢木だろう?」
 ホクトが風紀委員だと知りながら悪びれもなく煙草を吸い続けるルキアーノ。開いた口が塞がらないとはまさにこのことだ。
「チクられるとは思わないんですか?」
「そしたら、おまえもここに来れなくなって困るだろう?」
「またハッキングすればいいだけですから、言うかもしれないですよ?」
「ははっ おまえは言わないさ」
 そうだろう、とルキアーノは妙に自信に満ち溢れている。
「……まあ、そうですけど」
「助かるよ。その礼に枢木に屋上にいて良い権利をやろう」
「屋上は私物じゃありませんってば」
 アッシュフォード学園では珍しい、俗に不良と呼ばれる部類に入るルキアーノだが、回りが言うほど怖い存在ではないように思った。ホクトはルキアーノの言葉に軽く訂正を入れながら、その場に腰を下ろす。
「ブラッドリー先輩、」
「ルキアーノで良い。家名は好きではない」
「じゃあ、ルキアーノ先輩」
「なんだ?」
「煙草っておいしいんですか?」
 ホクトの言葉に一瞬呆気に取られたルキアーノだが、間を置かずまた声を上げて笑う。そして、半分ほどに減っていた煙草をホクトの方へと差し出した。
「吸ってみればわかるんじゃないか」
 差し出された煙草を受け取って、ホクトは見よう見真似で煙草を銜え一息吸い込む。
「…! っげほ! うえ…ッ」
「あははははは! 咽てやんの!」
「…、しかも、まずい」
 返そうと差し出すが、ルキアーノはそれを受け取らず先程吸殻を捨てた完を指差した。どうやら捨ててよい、ということらしい。ホクトはその中へ煙草を放り込んだ。
「よくこんなまずいの吸いますね」
「枢木がまだまだお子様ってだけだろう」
 にやり、と意地悪そうに笑いながらルキアーノは再び新しい煙草に火を着けた。ルキアーノの持った煙草の先からゆらゆらと上がる紫煙をホクトはばんやりと見つめる。
 気がつくと、空が夕闇に染まり始めていた。





「ただいまー」
「おかえり、ホクト」
「あれ、父さんこんな早いなんて珍しいね」
「ああ、今日は仕事が早く……あれ、ホクト煙草臭くない?」
「…そうかな?」
「うん、」
「ああ、職員室で移ったのかもしれない。今日、生徒会の仕事があって」
「きっとそれだよ。先にお風呂入っておいで」


(父さんは鼻が利くなぁ)







2008/11/28

 最初にルキアーノ。ものすごい趣味です…
 ホクトもお年頃なので、親に秘密のひとつやふたつぐらいあったりするんです。