2月14日、それは愛を伝える日。 「…終わんないよ」 スザクはペンを放り投げて、がっくりと肩を落とし呟いた。ちらりと視線の端で捕らえたのは、朝から一生懸命仕事に取り組んだ、ようやく半分終わった書類の山。時刻はもう夕刻を指している。 (今日は残業かなぁ) はぁ、と溜息を零してスザクは再びペンを握って書類に目を落とす。 ふとその時、今日はルルーシュに遅くなるということを伝えていないことに気が付き、スザクは携帯電話を取り出した。何度目かのコールの後、電話の向こうから綺麗なアルトの声が響く。 「ルルーシュ?」 『スザク、どうかしたのか?』 まだ仕事の時間だろう、そう話すその声を聴いているだけで、スザクの心はふわりと温まる。 「うん、ルルーシュの声聞きたくて」 『ばか…! そんな理由で仕事中に電話するやつがいるか!!』 「だって、ホントのことなんだよ」 仕事中だって、どんな時だって本当はずっと隣にいたいと思っているのだから。 「元気出てきた。ありがと、ルルーシュ」 『なにかあったのか…?』 「いや、ちょっと仕事が終わらなくて…。あ、そうだ! それで今日は帰りが遅くなるから、先に休んでて」 『そうか……。仕事、頑張れよ』 「うん、じゃあまた」 ルルーシュとの電話を終えたスザクは、よしやるぞ!と自分に気合を入れて再び仕事に励むのだった。 * * * 「あら、スザク。まだ残っていらしたの?」 神楽耶はいつもなら定時で帰宅するスザクがまだ残っているのを見て、目を丸くした。 「仕事が終わんなくて…」 「手際良くやらないからですわ」 「簡単に出来るんだったらやってるよ」 「そういえば、スザクはルルーシュさまに何を贈ったんです?」 「え?」 贈る、そう言われても何の話だかまったく見当がつかない。ルルーシュの誕生日は過ぎているし、結婚記念日でもない、一体何を贈るのだろうか。 「まさか…知らないんですか」 「な、何を…?」 「今日は何月何日!?」 「えと…2月14日…あ、」 「そうです、14日といえば!?」 「バ、バレンタイン」 バレンタインデー、それは乙女の聖戦。意中の相手に告白するグレードがほんの少し低くなる特別な日だ。 「でも僕、男だし」 「それは知ってます! 確かに日本のバレンタインといえば女性が男性にチョコレートを送る日ですが、ブリタニアでは違うんです」 ブリタニアでは男性が愛する人に愛を示す日である。勿論、贈り物はチョコレートに限らず何でも良い。 「そ、そうなの?」 「知らないなんて呆れてものも言えません」 「ど、ど、ど、どうしよぉ…!!」 顔色を変えて叫ぶスザクに、神楽耶は仕方ないとばかりに溜息を落とす。 「その仕事、代わってあげます」 「え?」 「わたくしがやるからスザクは早く家に帰りなさい」 「…いいの、神楽耶?」 「スザクの為ではありません、ルルーシュさまの為ですからね!」 「ありがとう!」 一秒でも惜しいとスザクは立ち上がり、鞄に必要な物を詰め込む。 「その代わりと言ってはなんですが、これをルルーシュさまとホクトに渡してください」 神楽耶が差し出したのは綺麗にラッピングされた箱――おそらくチョコレートだ。 本当は神楽耶が自ら手渡すつもりだったのだろう。それなのに、スザクの代わりに仕事を引き受けてくれた神楽耶にスザクはもう一度礼を言い、家へと向かって走り出した。 * * * 先に休んでて、スザクにそう言われたがルルーシュはリビングでスザクの帰りをぼんやりと待っていた。時刻は8時を少し回ったところで、スザクが帰るのはまだまだなんだろうとルルーシュは人知れず肩を落とす。 風呂でも入ろうか、そう思ったその時、来客を告げるベルが鳴る。ルルーシュは慌てて玄関へと向かう。 「はい…―――え?」 目の前いっぱいに広がる紅いバラの花束にルルーシュが驚くと、花束の後ろからスザクがひょこっと顔を出す。 「スザク…仕事は……」 「神楽耶が代わってくれたんだ」 「こ、このバラは…?」 「これはルルーシュへ。…実はブリタニアではバレンタインに男があげるって知らなくて、慌てて用意したんだ。…ちょっと、気障すぎたかな?」 照れ笑いを浮かべるスザクから花束を受け取ったルルーシュは、嬉しそうに微笑む。 「そんなことない。…嬉しい」 スザクは花束を潰さないように、けれどしっかりとルルーシュを抱き寄せた。 「ルルーシュ、愛してるよ」 「ああ、私も…」 力を抜いてスザクに身体を任せるルルーシュの髪を梳いて、そっとその髪に唇を落とす。 「なんだ、私より髪のほうが良いのか」 「そんな滅相もない。ルルーシュのほうが良いに決まってます」 くすくすと笑い合って、そうして2人の唇はゆっくりと重なった。 Sweet!Sweet!Sweet! 全国大会R2にて無料配布した話でした。サイト化に伴い再録。 2008/02/17 2008/11/15(改訂) |