そろそろ夕飯の仕度でもしようかとそうルルーシュが思ったとき、電話が鳴った。 「はい」 『あ、お姉様?』 電話の相手はナナリーで、思わぬ人物からの電話にルルーシュは表情をやわらかくする。 『お姉様、今日これから少しでいいのでこちらに来ていただけませんか?』 「今日か…」 相手への配慮を欠かすことのないナナリーらしからぬ急な話であったが、昔と変わらずシスコンのルルーシュはめったにわがままを言うことのないナナリーの要望に答えてあげたいと思う。 (けど、夕食の支度が…) 最初から決まっていたなら昼のうちに作り置きするなりなんなりするのだが、こう急な話になるとそれも出来ない。ルルーシュが返答に詰まったその時、学校を終えたホクトが帰ってきた。 「ただいまー。…あ、母さん電話?」 「おかえり、ホクト。ナナリーから電話が来たんだ。…ああ、ナナリー、ホクトが帰ってきた。今日は夕食の支度がまだで…明日じゃ無理なのか?」 『ごめんなさい、どうしても今日なんです』 ナナリーの言葉にルルーシュがどうしたものかと表情を曇らせる。 「母さん、どうしたの?」 「ナナリーに今から来れないかって言われたんだが、でも今日は夕食の仕度も何もしてなくて…」 「行ってきなよ、母さん」 「ホクト」 「今日は父さん早く帰ってくるって言うから、俺と父さんでご飯作るよ! だから母さん、たまにはゆっくりナナリーさんに会っておいでよ」 すまなく思いながらもルルーシュはホクトの申し出を受け、ナナリーの家に向かうことにしたのだった。 家のチャイムを鳴らせば杖をつきながらナナリーが姿を現す。ここ数年ずっと努力し続けたリハビリが実を結び、現在ナナリーはかなりスムーズに歩行が可能になっていた。まだ、長時間の歩行や杖なしでの歩行は困難であるが、それでもすごいことだった。 「今日は急にお呼び出ししてすみません、お姉様」 「いや、ナナリーに会えるのは嬉しいよ」 「ふふ、ありがとうございます」 通されたダイニングにはティーポットが用意してあった。ナナリーは慣れた手つきでもう蒸らしておいた紅茶をカップにそそぐ。ふわりと香る苺の香り。 「ストロベリーティーか」 「ええ、お姉様お好きでしょう?」 12月の寒さの中やって来た為、冷えてしまったルルーシュの身体をストロベリーティーがそっと温めてくれる。 「今日お呼びしたのはこれをお渡ししたかったんです」 そう言ってナナリーが差し出したのは綺麗にラッピングされた袋だった。 「お誕生日おめでとうございます、お姉様」 「…! そうか、今日は…」 「お忘れでしたの? もう、相変わらず自分のことだけ忘れっぽいんですから」 「ナナリーはよく覚えてたな」 「当たり前です。…それで、受け取ってもらえますか?」 「ああ、ありがとう。ナナリー」 ナナリーから贈られたのはアイボリーの毛糸で編まれたショールだ。繊細なデザインで、ところどころに花をあしらった模様が編みこまれていた。 「よかったら使ってくださいね」 すっかりナナリーと話し込んでしまったルルーシュは慌てて家路に着く。急かされるように玄関を開けると、パーンっと破裂音がした。 「誕生日おめでとう!!」 玄関先にスザクとホクトが立っていた手にはクラッカーを持っていて、それが先程の破裂音の正体であろう。ルルーシュが驚きのあまり固まってると、スザクが苦笑してルルーシュの顔の前で手を振る。 「ルルーシュ、起きて起きて〜」 「起きてるっ」 反射的にそう返したルルーシュの手をスザクとホクトが引き、ダイニングに誘導する。ダイニングは数時間前とまったく違う装いになっていた。モールなどがあちこちに飾ってあり、中央部分にはHappy birthday!!と書かれた色画用紙が貼ってある。 「母さんはこっちだよ!」 ホクトに勧められた椅子に座れば、目の前には蝋燭の立てられたケーキが置いてあった。ケーキといってもスポンジは異様に薄いし、生クリームはムラばっかりでがたがただった。中央部分の文字はおそらくHappy birthdayと書きたかったのだろうが、正直読めない状態だ。 「これは…」 「スポンジはいちよ僕が焼いてみたんだけど…上手く膨らまないもんだね、これ」 長年の1人暮らしの賜物で多少は料理の出来るスザクだったが、どうやら流石にお菓子作りは荷が勝ちすぎたようだった。 「飾ったのは俺なんだけど、上手くいかなくて…ごめんね、母さん」 考えていたよりも難しい作業にあまり見栄えの良くないケーキになってしまったことをホクトは済まなそうに謝った。 「…いや、とっても嬉しいよ。ありがとう、スザク、ホクト」 一生懸命に誕生日を祝おうとしてくれたことが何よりも嬉しかった。お店で並ぶ綺麗なケーキよりも、この不恰好なケーキのほうがもっと嬉しいとルルーシュは思った。 「誕生日おめでとう、ルルーシュ」 「母さん、おめでとう!」 嬉しくて、とても嬉しくて涙が零れた。 その後は神楽耶から差し入れのローストビーフ、カレンからのクラムチャウダー、ミレイからの焼き立てパン、藤堂たちからのシャンパンなどを食べて、いろんな話をするうちに夜は更けていったのだった。 ホクトを寝かして、スザクとルルーシュは寝室に向かう。 「実はさ、今日ナナリーに君を呼び出してもらうように頼んだの僕達なんだよね」 「通りでナナリーらしくないと思った」 部屋を飾り付けるのも、料理を用意するのも、ルルーシュに気付かれないようにするなんてまず無理な話だ。そこでナナリーに協力を頼み、ルルーシュを呼び出して貰うことにしたのだった。 「びっくりさせたかったんだって」 「わかってるよ」 ベッドに入ってスザクはそっとルルーシュを抱き締め、額にキスを落とす。 「ルルーシュ、愛してるよ。君が生まれてきてくれたことが僕にとっての最大の幸福だ」 「スザク…」 こつんと額同士をぶつけ、スザクはいたずらを思いついた子供のような表情を浮かべる。 「ねえ、ルルーシュ。ホクトに兄弟作ってあげよっか」 「…ばか」 Happy birthday my dear! 2007/12/05 2008/11/15(改訂) |