大切なのは



 眩しいばかりの晴天。ホクトはレジャーシートの上に座るスザクとルルーシュの姿見付け、小さく手を振る。
「あ、ホクト気が付いたね」
「スザクがあれだけ手を振れば嫌でも目に付く。開会式の途中なんだから大人しくしていろ」
 今日はホクトの小学校で運動会が行われる。スザクは有給を取り、ルルーシュは朝4時からお弁当作りに励むなど、主役であるホクト自身より両親のほうが運動会を楽しみにしていた。
 スザクはいそいそとこの日のために購入したビデオカメラを回しながら、列の中にいつホクトを見つめ嬉しそうに目を細める。
「随分嬉しそうだな」
「うん、すごく」
 開会式が終わり、生徒達が退場していく。最初の種目がアナウンスされる。
「僕が子供の頃、運動会とかって両親がいないのが当たり前だったから。親なんか来なくていいって口では言ってたけど、やっぱり少し寂しかったから、こうしてホクトの運動会に来れるっていうのがすごく嬉しいんだ」
「私はこういうものには縁がなかったからな…でも、確かに私も嬉しい。私達のホクトが成長しているのが肌で感じられるし、何より普段は見れないホクトの姿を見れるのが嬉しい」
 にっこりと2人は微笑み合った。
「あ、ホクトが走るぞ!」
 ホクトの出る短距離走が始まっていた。パンッという音と同時にホクトが走り出す。スタートはほぼ同時だったが、ホクトはどんどんと他の子供も引き離し圧倒的な差をつけて、一位でゴールした。
「ホクトってホントに足速いねぇ」
「おまえの遺伝だな」
「はは、ルルーシュのではないことは確かだね」
「うるさいっ」
 運動音痴という(本人は普通だと言い張る)コンプレックスを刺激され、ルルーシュはスザクの腹を殴るが、スザクはまったく平気そうな顔をしたままであった。
「ホクトと一緒に走るのが楽しみだな〜」
「何言ってるんだ?」
「え、PTA参加の二人三脚とかに決まってるでしょ」
「ないぞ」
「ええぇぇぇえ?! ないの!?」
「ない」
 ルルーシュが突き出した運動会のプログラムを上から下まで探してみるも、朱雀の求めるものはない。似たような種目があっても低学年の種目で、スザクが参加できるものはなかった。
「そんなぁ…それを一番楽しみにしてたのにー…」
 肩を落とすスザクの姿にルルーシュは苦笑を浮かべた。


「父さん! 母さん! …あれ、なんでこんなにここ空いてるの?」
 昼の休憩時間となったホクトが2人のいるシートのところへやってくる。2人のいるシートの周りだけ何故だか区画調整したかのように一回り誰もいない。
「さあ?」
「? まあ、いっか。出入り楽だし」
 実際はスザクとルルーシュが美形過ぎて近寄りがたいという雰囲気なのだが、ここにそのことに気が付き、尚且つそれを教えてくれるものはおらず、親子は知らないままランチタイムに入る。
「一位すごかったね、ホクト」
「へへっ 見ててくれた?」
「うん、ちゃんとビデオにも撮ってあるから、今度神楽耶たちにも見せてあげようね」
「え! それは恥ずかしいからいいってば!」
 スザクとホクトの会話を聞きながらルルーシュは力作のお弁当を取り出す。いろんな具の入ったおにぎり、厚焼き玉子に、たこのウィンナー、から揚げ、鯖の竜田揚げ、はんぺんのチーズ挟み焼き、ミモザサラダ、グラタン、青物の胡麻和え、紅白なます、イカとサトイモの煮物、きんぴらごぼう、アスパラのベーコン巻きetc…とにかくたくさんのおかずが詰まったお弁当にホクトは瞳を輝かせた。
「うわぁ、おいしそう!」
「午後も競技があるんだから、たくさん食べて頑張るんだぞ」
「うん!」
 お昼の時間はあっという間に過ぎていくのだった。


 ホクトが参加する競技もいよいよ次で最後だった。最後の種目は借り物競争だ。ホクトがスタートすると短距離走のときと同じようにすぐ他の子を引き離し、指示書の置いてあるポイントに到達する。ホクトは指示書を広い中を見る。
「何かいてあるんだろう」
「私達が渡せるものだったらいいが…」
「どうだろうね…あれ、ホクトこっちに走って来たよ」
 指示書のポイントからまっすぐ2人の元に向かって走ってきたホクトは2人に手を伸ばした。
「父さん、母さん一緒に来て!」
「えぇ?」
「なんて書いてあったんだ?」
「内緒! いいから早く!」
 ホクトに腕を引かれ、2人は走り出す。ホクトと一緒に競技に参加したかったスザクは願ったり叶ったりで嬉しそうに走り、ルルーシュは2人のペースに足を縺れさせそうになりながらも懸命にゴールを目指す。そうして、3人一緒に一位でゴールを切った。
 ホクトのいるチームはホクトや他の子供達の頑張りで優勝した。こうして運動会の幕が閉じたのだった。
「ねえホクト、借り物競争なんて書いてあったの?」
「内緒だってば!」
 ホクトは最後まで借り物競争に書かれていたものを教えようとなしなかった。聞きだそうとするスザクの手をするりと抜けて、ホクトはあれだけ動いた後だというのにまた走り出す。そんなホクトの後を追ってスザクも走り出し、親子で追いかけっこを楽しむ2人の背中をルルーシュは楽しそうに見守りながら、3人は家路に着いた。
 家に付くとホクトは糸が切れた人形のようにソファーの上で寝始めてしまった。
「子供って燃料ゼロになるまで良く動けるよね」
「そんなこと言ってないでホクトを起こしてくれ! そんな埃まみれじゃ寝かせられないだろう。私はお風呂沸かしてくるから」
「了解。ほーら、ホクト。お母さんが怖いから起きてお風呂入りな」
「ぅー…、うん」
 眠っているホクトの身体を揺すれば、眠そうに目を擦りながらホクトはよたよたと動き出す。そのとき、後ろのポケットから何かが落ちるがホクトは気が付かないままお風呂場に向かう。スザクはなんとなくそれを拾い、中を覗き込んだ。
「…スザク? 何をニヤニヤ笑ってるんだ」
「ニヤニヤって失礼だな」
「事実そうだから仕方ないだろう」
「もう。いいからこれ見てってば」
 そういってスザクの手に持った紙を覗き込めばそこに書かれていたのは――



 ―――大切なもの を ゴールに持ってきてください




大切なのは





ブログサイト1万HIT感謝企画にて、茶子ぱんださまよりリクエスト頂きました。どうもありがとうございました!




2007/12/02
2008/11/15(改訂)