ウェルカム・マイホーム



 快晴の空。朝から眩いばかりの朝日が部屋に差し込み、いつもと変わらないはずの部屋がいつもとは違うように見える。
 ホクトは母・ルルーシュが用意してくれていた朝食をしっかりと食べ、皿をシンクに片付けた。
「皿ぐらいそのままでいいんだぞ?」
「このくらい出来るよ。母さんは子供を甘やかしすぎだよ?」
「…そうか」
 30歳を過ぎたというのに昔と変わらぬ美貌のルルーシュがホクトの言葉にどこか拗ねたような表情を見せた。そんなルルーシュの様子にホクトは思わず笑ってしまう。
「何を笑っている」
「んー、なんでもないよ! あ、もう時間だ。学校行かなくちゃ」
 これ以上ルルーシュの機嫌を損ねないうちに学校を口実にして立ち去ろうとすると、ルルーシュから制止の声が掛かる。
「今日の放課後、都合がつくなら友達を連れて来い」
「どうしたの、急に?」

「いや、もうすぐナナリーの誕生日だろう。バースディケーキの案がいくつかあるんだが、どれにしようか困っていてな。今日、作るから試食して欲しいんだ」  わざわざホクトに友達を呼ぶように言うということはかなりの量のケーキを作るつもりなのだろう。家族であるスザクやホクトに対するルルーシュの愛情も深く広いが、実妹であるナナリーに対する愛は計り知れないものがある。スザク曰くルルーシュは昔からこうだったと言う。
「わかった。何人か声掛けてみるよ」
「ああ、助かる」
「じゃあ行って来ます」



 ホクトは両親と同じくアッシュフォード学園高等部の生徒会に所属している。ちなみに役職は風紀委員である。
 今日は放課後に生徒会の仕事もないので、生徒会のメンバーを誘うことにした。全員に声を掛けたが生憎、副会長のモニカは都合が悪かった為、行くことになったのは会長のジノ、会計のロロ、書記のアーニャになった。
「そういや、ホクトの家に行くのって初めてだな」
「あー…、うち妹達がまだ小さいから」
 他のメンバーならともかくジノを家に連れて行った日にはどんな被害になるか分からない。その為、ホクトは今まで一緒に遊んだり集まったりするのに自分の家がその場所になることを避けていたのだ。
「妹…?」
「そう。まだ幼稚園児なんだ」
 可愛らしい制服に黄色い帽子を被った妹達の姿を思い出しながらホクトは微笑んだ。その笑みを見たアーニャは思わず携帯電話でパシャリと記録する。
「じゃあホクト先輩が僕たちのこと子ども扱いするのって、妹さん達がいるからって僕たちにもそうしちゃうってことなんですね」
「え、俺そんなに子供扱いしてる?」
「してます! ね、アーニャ」
 少しばかり拗ねた様子のロロの言葉にアーニャは頷いて同意を示す。
「してる。…けど、役得。私はそれでいい」
「アーニャ!」
 ルルーシュ遺伝のホクトの甘やかしを嫌だと思っているわけではない。けれど、思春期の男の子であるロロには複雑なようだ。一方同じ思春期でも女の子であるアーニャは甘やかされる特権を役得だとは思っても、恥ずかしいともなんとも思わないようだ。
 そうこう話しているうちにあっという間に枢木家に到着した。
「着いたよ」
「おー、結構小さいんだな!」
「ジノ先輩の家が規格外なんですよ」
 名門校だがどちらかといえば大衆向けの学校であるアッシュフォード学園に通うジノだが、実家はブリタニア貴族の中でも名のある名家であるヴァインベルグ家だ。名門貴族の実家と一般人(父は日本議会員、母は元ブリタニア皇族という一般人というには無理がある家族だが、ホクトは自分を一般人だと認識している)の家を比べれば、それは小さくて当たり前だろう。
 スザクの大黒柱としての矜持の為に言うならば枢木家は一般手に見て充分に広い家である。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす」
 帰宅と来訪を告げればルルーシュはすぐに玄関に顔を出した。
「ホクト、おかえり」
「友達連れて来たよ」
「どうも。ジノです!」
「アーニャ、です」
「初めまして、ロロといいます」
「ああ、いらっしゃい」
 初めて息子が友人を連れてきた(正確には連れて来させたのだが)のがよほど嬉しいのか、ルルーシュの顔は蕩けるような笑顔だ。
「ちょうど出来上がったところだったんだ。部屋に持って行けばいいか?」
「そうだね…チビ達は?」
「居間で仲良く昼寝してる」
「じゃあ俺の部屋のがいいね」
 運んでくれるというルルーシュの好意に甘えることにして、ホクトはジノ達を連れて2階にある自室へと向かう。初めてみるホクトの部屋にジノ達は物珍しげに辺りを物色する。
「あんまり漁んないでね」
 そう言ってはみるが、素直に聞くメンバーでないことをホクトは重々承知していた。
「あれー? ホクト、ベッドの下にエロ本ってやつがないぞ! 庶民の男の部屋のベッドの下には必ずあるんだろ?」
「ジノ、庶民に対する認識おかしいから」
「ホクト先輩の部屋…記念に何か貰っていいですか?」
「ロロ…記念って言いながらなんでシーツを持ってるんだよ」
「あ、写真…」
 気がつくとアーニャは机の上に飾られている写真をじっと見つめていた。
「へぇ、どれどれ」
「あ、ホクト先輩小さい。可愛いなぁ」
 自分の小さい頃の写真を話題にされるというのは恥ずかしい。ホクトは3人の手から写真を奪い返そうとするが多数相手では簡単にはいかない。
「ホクトの母さん、全然変わってないのな! すっげー美人!」
「ジノ、母さんに近付かないでね。なんかすごく嫌だから」
「美人って言っただけじゃんかよー!」
「俺はジノの女性遍歴を知ってるんだからな。安心できるもんか」
「先輩、後でお母さんと並んでくれる?」
「どうして?」
「記録、」
「アーニャ、撮ったらデータ頂戴!」
「…了解」
「そこ、話を勝手に進めない」
「あ、私も欲しいぞ!」
「ジノは…駄目」
「そうですよ、ジノ先輩は駄目です」
「後輩達が酷いぞ、ホクト!」
「デカイ図体して抱きつかない」
 廊下まで響く子供達のにぎやかな会話にこっそりとルルーシュは微笑んで、トレイに載せたたくさんのお菓子を届ける為にドアをノックした。

 賑やかな枢木家での時間はあっという間に過ぎて行き、たくさん作ったはずのお菓子は食べ盛りの子供達の胃に綺麗に収められたのだった。




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2008/10/25
2008/11/15(改訂)