Burn My World 22 ブリタニア本国での話はアリエス宮襲撃事件のことで持ち切りだった。負傷したルルーシュの意識は回復せず、実行犯を手引きしたと考えられる人物の特定も出来ないまま、月日は流れていく。 スザクは自分の無力に打ちひしがれそうになりながらも、ナナリーに新たに誓った約束を守るためにも、立ち止まっているわけにはいかなかった。 「え?」 「だーかーらー、殿下が目を覚ましたってさぁ」 「スザク君、行って来ていいのよ」 ランスロットの実験中に唐突に投げかけられたロイドの言葉に、スザクは言葉を飲み込めず聞き返せば、ロイドは重ねてルルーシュが目を覚ましたのだと告げた。セシルがスザクの肩を優しく叩いて、ルルーシュの元へ行くように促す。 「ありがとうございます…!」 スザクは2人に向かって一礼して、すぐさま部屋を飛び出した。ルルーシュのいる病室に向かう途中で何度も人にぶつかりながらも、スザクは足を止めず走る。セキュリティの認証コードを打つのすらもどかしくて仕方がなかった。 「殿下…!!」 病室に走りこめば、先にいた黒の騎士団のメンバーがバッとスザクを振り返る。大勢の視線に晒されてスザクは一瞬怯むが、それよりもルルーシュのほうが気掛かりだった。スザクはメンバーの隙間からルルーシュの姿を探す。 「…殿、下?」 少しギャッチアップした白いベッドの上に身体を預けたルルーシュ。白い腕には未だ点滴があり、痛々しい。しかし、問題はそれだけではなかった。 「ルルーシュ殿下…?」 スザクの何度目かの問いにようやくルルーシュがゆっくりと首を巡らせた。こちらに顔を見せたルルーシュの顔色は作り物のように白く、そして意志に溢れていた瞳はただ綺麗なだけの硝子玉のように感情を映さない。 青い唇が何かスザクに離しかけようと薄く開くが、音を発することなくその唇は再び閉ざされ、ルルーシュはスザクから顔を背けた。 「スザク、ちょっと…」 カレンがスザクの腕を引き、病室から出る。周りに誰もいないことを確認して、カレンはスザクに向き直る。 「ねえ、殿下は…」 「落ち着いて聞いて欲しいの」 真剣な眼差しにスザクは思わず問いただそうとした言葉を飲み込んだ。 「殿下は…話すことが出来ないの」 「どういう…」 「声帯に異常はないわ。…おそらく、事件のショックで言葉を失ってしまっているそうなの」 「…そんな」 「ショック性のものは時間と共に回復する傾向もあるけど、それは殿下次第で。もしかしたらもう一生…」 厳しくも優しくもあるあの声が、もしかしたらもう二度と発せられることがないなど、なんて話だろうか。あまりのことにスザクは言葉もない。 「今後のことは今、扇さん達が話し合っているわ。ただ…殿下がこのままだと、私達も解散させられちゃうかもしれないって」 エリアを預かるからこそ騎士や親衛隊を持つことが許される。ルルーシュがこのままであればエリアを剥奪され、そして黒の騎士団は解散させられてしまうだろう。ルルーシュ個人に誓約する選任騎士ならば話は別だが、ルルーシュに専任騎士はいない。黒の騎士団を解散させられたら、ルルーシュの身を守るものがなくなってしまうのだ。 「駄目だよ、そんなの…!」 「だから! 今扇さんたちもどうにかしようと頑張ってるのよ!」 「っ! …ごめん、カレン」 もどかしく思っているのはスザクだけではないのだ。ルルーシュを守りたいと願う誰しもが、この状況を歯痒く思っている。 (どうして、あの人だけがこんなに辛くなくちゃいけないんだろう) スザクは力なく項垂れることしか出来なかった。 深夜を回った病棟は非常灯のぼんやりとした光以外は暗い闇に包まれている。スザクはルルーシュの病室の前であれからどうすることも出来ず、しかし離れることも出来ず、その場にいた。 意識が回復したといってもまだ体力的には回復していないルルーシュは、今は眠っている。もしかしたらもうルルーシュは目を開けてくれないんではないかという不安がスザクを襲う。 「…どうすればいいんだろう、ナナリー」 必要なのはきっと優しいあの笑みなのに、あの笑みがルルーシュに向けられることはもうない。スザクはただ傍にいることしか出来なかった。 next 2008/02/09 2008/11/18(改訂) |